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「俺は、いろいろなものを知らなかったらしいな」

隠居生活を始めて一年。宗明のところへ娘を上げようとする者が後を絶たず、見分役に賄賂を渡して引き入れようとする者が出てきていた。そうとは知らぬ宗明に、あの手この手で迫ろうとし、興味を引こうとしながら互いの足を引っ張り合うという、娘達の醜い争いが起こり始めた。成明に言われた事――宗明との子を成せば権力を得られる可能性がある――を脳裏に浮かべながら、宗明は自分のうわさがどう広まっているのか、どう見られているのかを知るいい機会でもあるし、と止める隆敏を説得し次からは自ら選ぶと決めた、最初の見分であった。 「隆敏」 「は」 「俺は、いろいろなものを知らなかったらしいな」 村の様子を眺めながら、宗明が呟く。 「あまり、外にお出になることがありませんでしたから」 「――――だから、私は成明のほうが向いていると思っていたのだよ」 今よりもまだ自由に動けていた頃――身の処し方を制御されはじめた頃でも、成明は屋敷を飛び出し、領民の輪の中に入ることを楽しんでいた。律された中に居ることを当然と受け止めていた自分に、苦く笑む。 「こちらで、ございます」 揉み手をはじめそうな村人が案内したのは、大風が吹けば瞬時に崩れそうな廃屋としか宗明の目には映らなかった。 「これが、家か」 思わず漏れた言葉に、何を思ったのか村人は薄ら笑いを浮かべながら上目遣いに見上げてくる。それに付き添いの者が小銭を持たせると、用は済んだとばかりに深く頭を下げて去っていった。見送り、従者が家の中に声をかけて引き戸を開けると、手をついた娘と枯れ枝のような男が、まず目に入った。その奥に、少年と青年の境目と思しき者が平伏し、隣に媚びた笑みを浮かべた男が控えていた。

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