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「まったく、息が詰まってかなわん」

「ようこそ、おいでくださいました。村長の、喜兵衛、と申します」 自分の名前をことさら強調しての挨拶に鷹揚にうなずくと、喜兵衛は膝を進めてきた。 「ここに居りますのが、御連絡させていただきました娘、園でございます。こちらが父親でして、その奥に居るのが、弟に御座います」 再び頷くと、顔をあげなさい、と喜兵衛が言う。それに従い、親子が顔を上げた瞬間、宗明は息を呑んだ。 ――――なんという。 その姿を見止めた瞬間、痺れたように思考が止まる。 「宗明様」 そっと声をかけられ、我に返った脳の大部分が稼動を再開する。けれどそれは、ひどく緩やかな動きで、宗明はただ一言、重い唇を震わせてこう言うことしか出来なかった。 「家族全員、召し抱える。すぐに、参れ」 喜色満面の村長が何かを強請るような素振りをするのも、従者がすぐに身支度を整えさせようと動くのも、遠い世界の出来事のように感じながら、宗明の視界は縫い付けられたように動かなかった。――背後に控えていた、園の弟と紹介された者から。 *** 茶を飲んでいると、成明の来訪があった。すぐに通すように伝え、宗明は濡縁から部屋に入った。ほどなくして成明が現れ、茶が運ばれるとすぐに人払いをする。退室した者の足音が遠ざかるのを待ってから、成明は大きく息を吐き出して着物の襟をくつろげた。 「まったく、息が詰まってかなわん」 「ずいぶんと、急がしそうだな」 「こうして兄上のところにくるのが、今のところ、唯一の息抜きだ。こんな格好をしていては、向こうでは口うるさく言われるからな」

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