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「何を、言っている」

一人ごちているような口調に、宗明が首をかしげる。 「女色に溺れ、女には飽いてしまった、ということもありうる。まぁ、双方を好んでいる者も居るが」 いぶかる兄に、成明は極上の笑みを浮かべた。 「兄上の手付きなら、不埒な考えを持つ者も手は出せまいよ」 「何を、言っている」 宗明の声が、乾いていた。 「荒廃した生活を送っていると、律した生活しかしてこなかったのに言われたんだ。これからそうなったとて誰も何も言わん」 言い終わると成明は手を叩き、人を呼んだ。 「兄上は、堪えることが性分になってしまっている。俺のように、好き勝手にしてみるのも、いいんじゃないか」 そう言いおき、また来ると背を向けた成明が耳元に唇を掠めて呟いた言葉が、宗明の奥にある暗い部分を揺さぶった。 ――好きに、その身に収めてみてはどうだ。 他の誰かの手が、伸びてしまう前に。 それは、甘露よりも甘く体に沁み込んだ。 *** 家族全員が召し上げられ、綺麗な着物を与えられた姉は、そこらの姫よりも高貴に見えた。父には医者が付けられ、栄養のあるものを与えられ、見る間に元気を取り戻していく。ただ養われるだけというのが居心地悪く、自ら下男の手伝いをしていた春吉は、立派な衣装を与えられ、今後は来客の案内などをするように申し付けられた。けれど、そうそう来客があるものではない。屋敷内の構図を覚えるために、あちらこちらを探索していた春吉に、宗明の下へ来客を案内せよと声がかかった。その相手が現領主であるということに緊張と好奇心を抱えて行くと、宗明と顔かたちはなるほど似ているが、纏う気配がまるで違う男に引き合わされた。

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