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「それで、春吉はどう思ったの」
「――――話が、あるんだ」
居住まいを正す春吉に、園と父が背筋を伸ばす。
「宗明様が見分に来られたときのことを、覚えてる?」
「そりゃあ、もちろん。忘れられねぇ」
深く、上半身ごと父が頷く。
「あの時、宗明様は僕を見ていたような気がしたんだ。姉さんじゃなく、僕を」
父は首をかしげ、姉は弟をしかと見つめた。
「けど、姉さんが宗明様の御正室に似ているって話を聞いて、僕を呼んだのは姉さんの代わりなんじゃないかとも、思った。似ているから呼べなくて、代わりにしているんじゃないかって」
春吉が、唇を噛む。
「でも、あの時――たしかに宗明様は、僕を見ていたんだ」
「それで、春吉はどう思ったの」
「え」
「はじめてあった時、春吉を見ていた宗明様を見て、どう思ったの」
「――――よく、わからない」
「代わりに呼ばれたと思ったときは、どう思ったの」
「…………それは」
目を床に落とした春吉の手が、拳を握る。
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