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「宗明様はいずこか」
「わかるなら、案内しろ」
「え、あ――はい」
がくがくと何度も首を縦に振り、慌てて歩き始める光正の後ろを、隆敏は周囲に目を配りながら進んだ。
***
突然騒がしくなった、と思ったら武装した者たちが押し込んできた。春吉ら家族を一所に集め、見張りに一人残して他の者たちが移動してすぐに、側室の棟から甲高い女の悲鳴が聞こえた。春吉は耳を澄まして外の様子に気を配る。しばらくして荒々しい足音が聞こえ、現れた男に傲慢な態度で見下ろされた。
「宗明様はいずこか」
三人で顔を見合わせる。父が、おずおずと答えた。
「わしらぁは、呼ばれたときに用事をするだけだで、なぁんも」
舌打ちをした男が踵を返し、見張りの男がついていく。襖が閉められ、家族三人となってから、春吉は口を開いた。
「宗明様は、いらっしゃらないんだね」
「一体、何事なのかしら」
不安げに、外に目を向ける姉の横顔を見つめる。
――こんなときに、僕は何を考えているんだ。
姉が、宗明の妻に似ているという言葉が蘇る。憂い顔の姉は、弟の目から見ても美しい。
「春吉?」
園が、弟の視線に首をかしげた。
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