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膝を寄せて声を潜めた光正の息がかかる。
春吉は頷き、そういうことになった。
***
「よし」
しっかりと戸締りをしてから正光は胡坐をかいて円座に座り、春吉にもそれを勧めた。
「あの、隠居をなされた理由って、私生活が乱れたからとかいう――それが、嘘だったって事、なんですか」
おそるおそる口にする春吉に、前のめりになった光正がゆっくりと首を縦に動かす。
「もともと宗明様は真面目な方で、成明様のほうが自由奔放と言うか、そういう性質のお方なんだ」
頷く。一度しか会っていないが、成明の雰囲気はそういうものだった。
「宗明様が女色や酒色におぼれるなんて、お人柄を知っている者からしたら有り得ないとしか言いようがなかったんだがな。国主様からのお達しには、理も非もなく従うしかないだろう」
ふと、床に視線を落とす。三度の逢瀬の折の優しさ、穏やかさが思い起こされ、春吉の心臓を柔らかく締め付ける。
「それで、まぁ、そういうことになったのだから、そのように振舞おうってことで、この隠居屋敷が建てられて、春吉も知っている通りの美女集めが始まったわけなんだが」
頬に、膝を寄せて声を潜めた光正の息がかかる。
「抗議をなされようとは、思わなかったんでしょうか」
「抗議なんてすれば、兄弟間での争いになるだろう。お二方は仲が良いし、権力争いで血が流れる場合もある。それをお互いが厭われたのだろう」
光正の指が、春吉のうなじに触れた。
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