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変化は、怒涛のようにやってくる。
「光正、何をしている」
「はっ、隆敏様」
慌てて春吉から離れた光正は、ぴしりと姿勢を正して直立した。
「油を売っている暇があれば、従者の方々の世話をして来い」
「すぐに、参りますッ」
名残惜しそうに春吉を見てから去る光正に、嘆息を溢した隆敏が笑みを浮かべる。
「初めての案内役が領主相手で、緊張をしたか。まぁ、人を緊張させるような方ではないが」
「そうですね」
先ほど案内した領主の姿を思い出し、春吉が頷く。
「ここの生活には、慣れたか」
曖昧に笑む春吉にうなずく隆敏が、何かを言いたそうな顔をして口を噤み、成明様がお帰りになる際の案内も頼むと去っていく。それを見送り、自室で案内役の仕事を待っている間、今日は何かが常とは違うような気がすると、春吉は考えた。変化は、怒涛のようにやってくる。まず召し抱えられたことが人生にとっての大転機であるのだが、そこから先は緩やかであった。それが、ここに来て大きく変わるような予感がしている。成明の従者が自分に向けてきた視線は、女衒が姉に向けていたものに酷似していた。そういうものを、今まで向けられたことがなかったわけではない。そういう世界があることは、なんとなく知ってはいるが自分にそのような事が起こるはずはないと思っていた。けれど、何か、そういうものが自分に絡み付いてくる予感がしている。
「成明様が、お帰りになられるぞ」
呼ばれ、腰を上げる。ふいに湧いた考えは、春吉の下を去らない。にこりとした成明に頭を下げて先導し、馬の側まで案内し終え、それではと挨拶をすると鼻先に顔を近づけられた。
「兄上は、ひどく不器用なんだ。宜しく、頼む」
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