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「顔を、見せよ。こちらに参れ」
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おとないを告げる声に、宗明は唇を噛んだ。これから、あの者を自らの物とする。それに対する罪悪感と高揚とが、全身を包んでいた。成明が去った後、隆敏を呼び、春吉を求めると告げたとき、空棟に家族を住まわせ園のフリをさせて春吉を寝所へ招くよう提案された。表情を変えることなく、すぐさま行動を起こした隆敏の胸中はどうなっているのだろうかと思いつつ、今宵のことに胸躍らせ、気もそぞろに日暮れまでの時間を過ごした。春吉の姿は、見分の時以来見ていない。けれど、あの時の衝撃と「欲しい」という衝動は日々膨らむばかりだった。
「よく、参った」
襖の側に座して無言で平伏している春吉の姿に、鼓動が早鐘のように鳴っている。
「顔を、見せよ。こちらに参れ」
ゆっくりと顔を上げ、被っている着物を下ろした彼の姿に宗明の唇から息が漏れた。月光に浮かぶその姿が、ゆっくりと自分の側に寄ってくる。
――嗚呼。
どのようなものを見ても、これほどに心が静かに揺さぶられることはないと、宗明は目を細める。薄く開いた唇、揺れる瞳を直ぐにでも喰らいたいという衝動と、壊れぬように慈しみたいという願いが去来する。そっと手を伸ばし、頬に触れると瞳はじわりと光を滲ませ、雫を溢した。
「怖いか」
春吉は微動だにせず、涙をこぼしながら見つめてくる。
――嗚呼。
胸が疼く。
「私の相手をせよ」
頷く春吉に、宗明は唇を寄せた。
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