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第6話嘘はつきたくないけれど
「桜子様、桔梗様にメッセージを送りました」
「本当に送ったのよね?……携帯を見せなさい、今すぐ」
楓が本当にメッセージを送ったのか疑っている桜子は携帯を見せるよう強い口調で命令した。楓は半泣きになりながら携帯を差し出そうとした。その時、
ーピリリリリ ピリリリリー
携帯の着信音が鳴り響いた。この携帯には望月家の自宅と桔梗の携帯の番号しか登録されていない。そっと着信画面をみるとそこには『桔梗様』の文字。桜子も画面を見たのか一瞬驚いた顔をした後、楓をじろりと睨んだ。
「桜子様、電話をとってもよろしいでしょうか……」
「……いいわ、ただしここで取りなさい」
桜子の冷ややかな視線を浴びながら楓は着信画面の応答ボタンを押した。
「はい、楓です」
『楓、今いいかい?メッセージ見たんだけど、どうしたの?』
「すいません、桔梗様。あの、せっかくのお誘いだったんですが……期末試験も近いですから」
『楓はいつも成績いいじゃないか。でも、そんなに勉強が大変ならお祝いは日にちをずらそう。なんなら当日は私が勉強を見てあげるよ』
いつもの楓を労わるような優しい桔梗の声。それなのに嘘をつかなくちゃいけない事に胸が苦しくなる。
「いえ、あの大丈夫です。桔梗様のお手を煩わせることなど僕には出来ません。……あの桔梗様っ、僕十八になります。もう子供ではありません。今までっその……お祝いとかたくさんの心遣い、あ、ありがとうごさいました」
『楓……?』
「もう僕は大丈夫です。ただの使用人なのですから……。だから今後は……そういうことしないでください」
『どういうこと?』
「桔梗様、ごめんなさい。本当にごめんなさい……もう切りますね」
そこで楓は電話を切った。桔梗が何か言いかけていたがこれ以上話すと涙が出そうで、そうなると勘のいい桔梗の事だからきっと楓がどんな状況にいるかわかってしまうことだろう。
ーーそうなったら……桜子様にバレてしまったら、ここにはいられない……
震える手で携帯を握りしめ茫然としていると、桜子のくすくすと馬鹿にするような笑い声が聴こえた。
「なんだ、ちゃんと言えるじゃない。お兄様の着信はもう取ってはだめよ。そうそう、お兄様には私がちゃあんと話しておくから安心して?『楓は、食事も何かと構うのも本当は嫌だったって』」
「そ、そんな!」
「あら、なあに?ここに居られなくなってもいいの?……楓。よく覚えておきなさい。私がお父様に言えばあなたなんてすぐに追い出されるんだからね。……わかったなら早く出て行って」
それから桜子の部屋を出た後に仕事に向かったが後の事はぼんやりとしか覚えていない。
仕事が終わり携帯をみると不在着信が何十件も残っていた。
もう取ることの出来ない電話を握りしめベッドに横たわった。
「薬飲んだのに、おかしいな……」
目を瞑り桔梗のことを想うだけで体に熱がこもりお腹がちくちく痛んだ。
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