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第13話君オメガでしょ?

ホテルのエントランスには既に『支配人』と呼ばれる男が待っていた。 「お待ちしておりました、望月様。いつものお部屋を用意しております。こちらへどうぞ」 支配人はオールバックでしっかりと固められた頭を深々と下げた後、桔梗の鞄を受け取った。 「支配人。急な対応、感謝するよ」 「いえいえ、いつも望月様にはよくして頂いておりますから」 どうやら出発前に電話をかけていた相手は支配人だったらしい。 エレベーターはグングン上がる。ガラス張りのエレベーターから下を見ると外を歩いている人たちがだんだん小さく見えて楓の足がすくんだ。チン、とエレベーターが目的階に着いた音がし、扉が開いた方を見ると桔梗がニコニコ微笑みながら楓の手をきゅっと握った。 「さあ行こう。……ところで、ずっと、外を観ていたね。何か面白いものでもあった?」 「あっ、いえ……その、こんな高いところ初めてで……すいません」 高級ホテルでは相応しくない行動だった、と楓は顔を真っ赤にした。 「なに、謝ることなんてない。真剣に外を観ている姿が可愛かったよ。……まあ、これからはこういう所も行く機会が増えるから慣れていこうね」 「え……?」 なんで行く機会が増えるんだろう、そう思っているうちに一つの扉の前で支配人が歩みを止めこちらを振り返った。 「お部屋はいつもの最上階をお取りしております。何かありましたらフロントまでご連絡ください。……ではごゆっくりお過ごしください」 支配人はそのまま桔梗にルームキーと鞄を渡すと、来た道を戻って行った。 「さあ、楓。中に入って」 桔梗はルームキーで扉を開けると楓に入るよう促した。 楓は緊張しながらも部屋に入るとその部屋の凄さに口を開け固まってしまった。 広々としたリビングにガラス張りの窓。そこからは富士山が見える。 「楓、大丈夫?……もうすぐお医者様が来るから。コートを脱いでソファに座ってて。私はお茶でも淹れてくるよ」 「は、はい……!」 桔梗に言われるまま急いでコートを脱ぎソファに座った。と、そこで楓はあることに気が付いた。 ーーお医者様に診てもらうって……僕、保険証もお金も何も持ってきてない! 慌ててキッチンにいる桔梗に駆け寄った。 「あの、桔梗様。僕、お金も保険証も持ってきていなくて、その……」 「……え?お金?何言ってるの楓」 楓がなんとか説明しようとしているとピンポーンと部屋のチャイムが鳴る音がした。 「あっ、お医者様がいらしたよ。楓、ソファの所で待ってて」 桔梗はそう言うとさっさとドアの所に行ってしまった。 ーーー 「やあ、初めまして!君が古森楓君だね。俺は山之内総合病院で医師をしています、山之内明彦といいます。君の話は桔梗からよく聞いているよ」 部屋に入るなり大声で挨拶をしてきた男はニカッと笑いながら楓に握手を求めてきた。桔梗よりも大きいその男はネルシャツにジーパン、茶髪の長い髪を一つに縛っていて楓が思い描いていたお医者様とはかけ離れていた。 「先輩、先に行かないでくださいよ。楓、こう見えてもこの人私の大学時代の先輩で、ちゃんとしたお医者様だから安心して」 後から部屋に入って来た桔梗の言葉を聞いて楓はホッとして、やっと握手に応えることが出来た。 「えっと、古森楓です。今日はよろしくお願いします。といっても……体調は良いんですけど……」 「そうなの……?君に発情期が来たって連絡がきたからここに来たんだけど」 「え……?」 「だって君、オメガでしょ?」 その言葉に楓は愕然とした。

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