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第17話望月の家に帰ってもいいの?

「おーい、結果が出たから入っていいか?」 山之内の大きな声が部屋の外から聞こえてきた。どうやらノックをしたらしいが二人とも気づかなかったのだ。 山之内は冷静な表情で、ベッドに座る楓とその横にいる桔梗に告げた。 「まぁ結果なんだけど。……楓くんは『オメガ』だった。ベータからオメガになった理由は詳しく検査しないとわからないけど、でも今回の検査では、はっきり『オメガ』だと出た。これは間違いないよ」 「僕が、オメガ……」 ベッドに座ったままどこか他人事のような気持ちでぼんやりと空を見上げる。そんな楓の手を桔梗は黙って握っていた。 そのまま脈や血圧を計り問題がない、ということで望月家に帰ることになった楓に山之内が袋を差し出した。 「あっ、これ楓くん。これは今すぐに飲んで。二種類薬あるから」 「薬……」 「これがアフターピルね。まだ間に合うから飲んで。あともう一種類が抑制剤。一般的にヒートは三ヶ月に一度、一週間程度続くけど君はオメガになったばかりだから、しばらく様子見かな。とりあえず毎日同じ時間に一錠飲むこと」 薬の説明をし終えると、絶対に週明けに病院来てねと念を押して山之内は部屋を出て行ってしまった。 バタンとドアが閉まる音がなり手元に残された薬を見つめる。そのピンク色の薬が『お前はオメガだ』と言っているようで楓は急に不安に襲われガクガクと震え出した。 「桔梗様……どうしよう……僕はこれからどうやって……」 ーー自分がオメガだったら抱いてもらえるかもって、思ったのが間違いだったのかな……。 震える体を自分自身で抱きしめ抑えているとふと大きくて温かい手が楓の体を包み込んだ。 「大丈夫。大丈夫だよ、楓。私がそばにいる。……何があっても君を守るから」 その言葉を聞いて楓は自分の涙腺が緩むのがわった。 張りつめていた心が解れると、桔梗にしがみつきながらわんわんと声をあげて泣いた。それはもう子供が母親に泣きつくように。 ーーー 「帰る前に、少し話をしながらドライブしようか」 楓を元気づけるためだろう、車に乗り込むといつもよりワントーン明るい声で楓に話しかける。 「あの……それなんですけど、僕は望月のお家に帰ってもいいんでしょうか」 「なんで?君の家はあそこだろう」 「僕はオメガだったし……。それに桜子様との約束も……」 「……なぜ桜子の名前がでてくる?」 「いえ……なんでもありません」 桔梗がハンドルをぎゅっと握ったのがわかった。チラッと横顔をみると眉間に皺をよせている。まずいと思ったが時すでに遅し。桔梗が苛立っているのがわかる。 「楓、言いなさい」 俯く楓に、冷たく言い放った。 「……その桔梗様にあまり関わってはいけないと……。でも!桜子様のおっしゃることは確かで、僕は使用人なのにすごく桔梗様に甘えすぎていました。なので……」 必死に桜子のフォローをするが話せば話すほど桔梗の顔は真顔になっていった。 ーーもう、何も喋らないことにしよう。 楓が話すことを諦めてしばらくすると、車はどこかに駐車したようだった。 前をむくと、どうやらここは山の頂上にある休憩スペースで桔梗の車以外誰もそこにはいなかった。 「君が、誕生日のお誘いを断ったのも桜子に言われたから?」 「……はい」 桔梗がはあ……と大きなため息をつく。そして短髪の黒髪をくしゃっと片手で掻き上げると楓の方を見据えた。 「桜子のことは私がなんとかする。楓は私の側にいればいい」 そして「こんなところで言うつもりはなかったんだけと」と呟くと楓の両手をぎゅっと握りしめその漆黒の瞳で楓を見つめた。 「楓、君が好きだよ。……私の番になってください」

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