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第18話プロポーズ
「番……って」
「言っただろう。私たちは運命の番なんだ。帰ったら父にも報告したい」
「そ、そんなっ……だめです」
「なぜ……?」
桔梗の楓の手を握る力がぐっと強まった。
「運命って突然言われてもそんな……受け入れられなくて。自分がオメガだってことも信じられないんです」
言いながらだんだん声が小さくなっていく楓の姿を見て桔梗はハッと我に返った。
「そうか……そうだね。確かに突然言われても難しいはずだ。あまりに嬉しすぎて舞い上がってしまったようだ……。ごめんね、楓」
桔梗の言葉に安心した楓はホッとした表情で桔梗を見つめた。桔梗は握っていた手を外し楓の頬を優しく撫でると言葉を続けた。
「でもね、楓。運命とか関係なしに君のことがずっと好きだったんだよ。だから……もう今更楓を他の誰かに渡すつもりはないんだ」
「あ、あの、僕は!僕の旦那様は、ずっとずっと……六年前から桔梗様だけです。他の人の所にはいきません!」
前のめりで反論する楓に思わず桔梗は困ったように笑った。
「うーん……ありがとう。その気持ちは嬉しいよ。でもね、私の言っている意味は少し違う」
「え……?」
首を傾げ桔梗の言葉の意味を考えている楓の姿を見ると、ふうと一つ深呼吸。そして楓の緑色の瞳をじっと見つめた。
「古森楓さん。あなたが好きです。絶対に私が守るから……。結婚前提にお付き合いしてくれませんか?」
「……へ?」
驚きすぎて楓の口からは間抜けな言葉しか出てこなかった。ぽかんと口を開けたまま傾げた首は戻らない。
「楓、大丈夫……?」
桔梗の言葉で我に戻ると楓はわなわなと震え出した。
「結婚……?!お付き合いって……僕と桔梗様が!?そ、そんな僕無理です……」
「無理じゃない。楓は私が嫌かい?こんなおじさんでは好きになってはくれないか。私はこんなにも楓が好きなのに」
そうして落ち込んだふりをして楓の様子を見ていると、楓がアワアワと慌てだした。
しばらくすると顔を真っ赤にした楓が意を決したように前を向いた。
「す、好きです!……僕は桔梗様にお会いしてからずっと、ずっと……あなたをお慕いしてきました」
「良かった……。じゃあ楓、返事は?」
「……!不束者ですが……お、お願いします!」
その言葉を聞くと同時に桔梗はきつくきつく楓を抱きしめた。
ーーやっと、やっと楓の心を手に入れた。
幸せで抱きしめたまま頬ずりすると腕の中から苦しそうに悶える声がした。
「き、きょうさま……ぐ、るじい……」
「ああ、ごめんよ」
急いで腕を緩めると自然に視線が絡み合う。
「楓、キスしていい……?」
「はい、したいです……」
頬をピンク色に染め楓の長いまつげがフルフル震えている。
顎に指をかけるとその長いまつげがゆっくりと瞼に落ちる。
山頂からの夕日が優しく甘い二人のキスを照らしていた。
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