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第4話 過去3
数週間ぶりに運動公園に行くと、いつもは閑静な屋敷の玄関に、引越しのトラックが横付けされていた。
驚いた僕が彼のアトリエに駆け込むと、そこは段ボール箱が積み重なり、イーゼルに架けられた絵は、全て厳重に油紙で梱包されていた。
すっかり様変わりした様子に、思わず「やめろ!」と叫びそうになった時、後ろから聞き慣れた杖の音がした。
「きみか。もう来ないかと思った」
振り返ると、正装に近い姿の少年がいた。
「最近、サッカーしてないんだってな。公園まで見に行ったけど、いなかったから。この間は、笑ったりして悪かった」
少年は、頼りなさそうな僕に、微笑みかけた。
「これをあげようと思ってさ」
「こ、れ……?」
「クリスタルらしい。良かったら、ボールの代わりにもらってくれないか」
あげるつもりで置いていったのではないとの言葉が、喉につっかえた。掌におさまる透明な玉石を、俯いた僕は握りしめた。アトリエじゃない奥の部屋から、業者の人らしき呼ぶ声がして、少年はそれに答えると、そっと僕の頭を撫でた。
「さ、もういくんだ。またな」
「ど、どこへ?」
「アメリカ、だってさ。でも、また帰ってくるよ」
それからしばらくして、屋敷は取り壊され、土地は更地になった。
売地となったその土地を見て、僕はひとつの季節が終わったことを悟った。
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