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「僕も気分は新婚だからね。気持ちは分かるとも」 と言いつつ、独身である。
「死ねば良いのに」
小さな声だった。
思わず海輝は隣を見る。
同僚は一週間前に受信した筈の社内メールを開いている。
忘年会の案内メールだ。
彼の表情を盗み見し、返信期日ギリギリまで放置していたことを理解する。
そんな事をしても、現状は変わらないのに。
無駄な事を。病院内で予防接種を拒む犬並に無駄な努力だ。
何一つ打破する気も無いのにうじうじ悩んで。
先延ばしにしていた答えをこれから嫌々返すといったところか。
馬鹿だなぁ。
小さく笑う。
「じゃぁ、殺すしかないね」
隣の席に座る彼がハッとした顔で此方を見て、ばつが悪そうに笑う。
聞かれて不味い事は口に出さない方が良い。
たとえ小さな声でも、海輝の様な地獄耳には届いてしまう。
聞こえぬ振りでもすれば良かったのだが、思わず反応してしまった。
「僕も同感なんだ」
「えっと」
「僕も気分は新婚だからね。気持ちは分かるとも」
「……は?」
「欠席すれば? 忘年会何て強制するものじゃないよ」
些細な事で腹を立て人を殺していたら、毎日人を殺していくことになる。
それは駄目だ。
殺すのは良いが、遺体処理が面倒だ。
ならば拒否すれば良いのだ。
たかだか忘年会だ。
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