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焼き払えと巨神兵にお願いしてやろうか

おい、どういう事だ――第二段である。 噂は尾鰭どころか、背鰭、胸鰭までついてるではないか。 朝比奈 海輝は失恋をした。 理由は色々盛られまくってるが、お家の問題も有り結婚前提の真剣な交際を考え、よりスペックの高い女を求め現在の恋人とは別れたという話が加わっていた。 新しい女がすでに出来たと言う噂もある。 女子社員にとってはどちらが信憑性を帯びた情報と受け止めるかは謎だ。 しかし何方かと言えば願望に添った情報を信じている節がある。 結婚前提で交際できる相手を募集中であるほうが都合が良いらしい。 成程成程。どうやら、恋人や伴侶となる相手を愛情よりもより良い「条件」で選ぶ男と思われているらしい。 ふざけるな。 残念ながら追加された情報を信じる女子社員が多く、しつこいほどにアプローチを受け、いい加減面倒くさくなって来た頃だ。 声をかけられ足止めを食らう。 蠅に集られる様で目障りだ。 大体の話の内容が忘年会後のクリスマスデート、年末の予定、年明初詣のお誘いが九割を占めている。 中には、仕事でお世話になっているお礼に良いお店を見つけたからディナーでもと誘われた時喉元まで「いや、別に仕事だし。そもそも君より僕お金持ってるからご馳走したいとか困るし、え? まさか奢れとか図々しい事言わないよね? それからわざとらしい上目遣いで甘えた声出されると鼻の穴に指突っ込みたくなる」とデリカシーの欠いた言葉が出掛けた。 期待に目を輝かせても錦以外とデートはしたくない。 そもそもデートどころか錦と会う事すら出来ないのに、何故プライベートで他の女に時間を割かねばならないのだ。 冗談ではない。 錦と海輝の間に付け入る隙など1ミリたりとも無いのに滑稽だ。 どの部署の女も、夢見がちな脳味噌は溢れんばかりのお花でも咲いているのだろう。 綿毛がふわふわ飛んでいるに決まっている。 焼き払えと巨神兵にお願いしてやろうか。 お花畑と言えば、上司の今田だ。 汚物は消毒せねばなるまい。

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