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メビウスの輪ですかエンドレスですか
錦以外に興味はないので、その粘着の矛先は一人にしか向いていない。
(一部では、錦は生贄または供物扱いされている。)
実害が無いから、皆海輝は優しく紳士的だと勘違いしているに過ぎない。
そんな変態が、今まさに脳内で恥ずかしがる錦に性的で意地悪な言葉を投げながら、シャツの中に手を滑り込ませようとしている所だった。
猥褻極まりない妄想へ足を突っ込み膝まで沈みかけた時、金壺眼と視線が合う。
瞬時に思考は切り替わった。
テレビのチャンネルと同じく一瞬の出来事だ。
もう少しで、錦の柔肌に辿り着けたのに。
良い所を邪魔されて、穏やかになりかけていた心がまた荒む。
真っ直ぐに返せないくせに、虚勢を張り見つめ返す瞳はどこか怯えが見え隠れする。
海輝は笑顔を浮かべた。
この手の人間は虐めたくなるのだが、それも堪える。
完全に優位に立つと心に余裕が出来るのが人間だ。
「君もしかして、忘年会を下らない飲み会と勘違いしていない?」
逆に忘年会にそこまで価値を見出すお前が凄い。
「まだ続くんですかこの話。メビウスの輪ですかエンドレスですか」
「思ってない?」
何時にない突き詰め方である。
もしかして、彼は攻勢を取れてると勘違いしてるのだろうか。
「スケジュールを考えれば分かるのでは」
スケジュールが短期間でパンク寸前に詰まってるのだ。
ヒアリングの時点で頭にクエスチョンマークを浮かべなかったのか。
何故スケジュール管理が出来ていないのかと首を傾げたものだが、責任者の名前を見て「なーんだ唯の無能かぁ! 錦君! ものすっごい無能がこの会社にいるよ!」と笑顔で納得した。
笑うしかない。
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