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めでたし、めでたし

あー…と気の抜けた声が思わず漏れてしまう。 耳元で飛び回る蚊を捕まえた時に近い気分とでも言おうか。 毎年しつこいが今年は特にしつこかった。毎年忘年会新年会を欠席すれば「君が出なくてどうするんだ」とくどくどと説教をされる。 適当に親族の入院だの葬式だの法事だのを主な理由にあげて毎年切り抜けて来た。 だから一応ドタキャンだけはせずに済んだのだ。 しかし、今回は仕方有るまい。 社会人としてどうかなーっと正直思わないでもないが、今年は今田だの山田だのが粘るのだから仕方がないのだ。 自分以外の人間が同じことをしたならば、ネチネチ虐めていた所だが、海輝は自分勝手な男なので「仕方がない」の一言で片付ける。 物事には優先順位があるのだ。 今度こそ、川野も事務処理を受け入れざるを得ない状況なので無事欠席となった。 めでたし、めでたし。 「逃げろとは言ったけど、あれは酷い」 苦笑した伊藤に「何の事ですか」とシラを切り、皆が忘年会出席の為帰宅または外出準備をしてる傍らで、いそいそ帰り支度を済ませスキップしながらドアを潜る。 同じプロジェクトチームメンバーから「逃げやがった」等と非難の眼差しを受けるが、チームメンバー四人程度なので痛くもかゆくもない。 それで君たちこの状況で出席するんだ? 正気かい? そんな風に笑みを返す。 「朝比奈さん、お疲れ様です」 「あの、叔父様は大変でしたね」 「何か困ったことが有ればいつでも相談に乗りますよ」 等と、廊下や受付近くで会う女子社員に声をかけられる。 他部署まであっという間に話が広がった様だ。 会話の糸口見っけ! とばかりに話しかけてくる彼女達に、有難う御座いますと微笑めば、茶番でさえも茶番でなくなる自分が恐ろしい。

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