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自称、慈悲深く美しいピエタ像のお言葉

「どうしました? 大変だ。誰かっ誰かああああ」 「おいっ、今度は何だよ」 今度とは何だ。何だその言い草は。 数人が個室に流れ込んでくる。 「突然倒れた。救急車呼んで」 「何だってぇ!?」 自分で言うのもなんだが、同僚たちにはこの慈悲深く美しい姿がミケランジェロのピエタ像に見えたことだろう。 相手は薄ら禿なのだが。 「過労か?」 馬鹿言うな。今田が過労なら、プロジェクトチームのメンバーなど何度でも過労死しておるわ! ――と言う言葉を飲み込む。 「こういつぁもう忘年会どころじゃない。あぁ、神よ! 僕にクリスマスの度に試練を与える神よ! 僕だって一緒に共に頑張った皆と忘年会したいのに!皆と一緒に居たいのに何て仕打ちだ。何時か僕が家庭を持った時貴方はクリスマスにいったいどのような試練を与えると言うのだろうか!? 神よおおおお」 自称慈悲深く美しいピエタ像の言葉に、女子社員から悲鳴があがる。 「いやああああ! 家庭ですって!?」「やっぱり、付き合ってる人いるって!」「誰よ失恋って言ったの」「やっぱり新しい女?」「もしもし、コンサルティング部門の秋本ですが総務課ですか? ちょっと佐野さんいらっしゃるかしら?」「もしもし、コンサルティング部門ですが、情報システム課の加藤さん? 朝比奈さんの事なんだけど」 反応するのはそっちかよ。 何が失恋だ、何が新しい女だ。 内線使ってプライベートな話するな。 本人の目の前で、情報交換するな。 錦と僕の愛は永遠だ。 「早く救急車呼んでくれ」 上司の心配ではなく、強制入院させて隔離するためである。

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