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「言わせるかホアタァッ!」

そんな海輝と同僚の密かなやりとりに気が付かない今田は、席を立ち窓際の観葉植物の前で屈む。 鉢植えに差された活力剤のアンプルの角度を変え盛大な溜息を吐いた。 海輝は、今田の背後に忍び寄る。 地肌が櫛目状に見える頭頂部を見下ろしながら、髪の毛の流れを変えればミステリーサークルが出来てしまう事を発見する。 やばい、やってみたい。 宇宙人とか降りてくるかもしれない。 指がワキワキするが、海輝は堪えた。 錦以外の髪の毛など触りたくも無い。 「君の親族とやらは毎年クリスマスには倒れるね」 此方を見ず、屈んだまま海輝に話をする。 そう言えば、毎年「親族がー」とか言ってた気がする。 「クリスマスの呪いですね。何という悪夢だジーザス!」 「はぁ。君、本当はクリスマスに彼女と過ごす約束でもしてるんじゃないの」 馬鹿め。その位置は皆からは死角になる。 「忘年会も大事な」「言わせるかホアタァッ!」「フゴッ!?」 光の速度で、海輝は三発手刀を打ち込んだ。 脳天に打撃を受け「忘年会出席も立派な仕事」と最後まで言い終わらない内に、上司は床に沈んだ。 計算通りだ。 海輝はさっと上司の上半身を胸に抱き、悲鳴を上げる。

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