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海輝様は搾取される側ではなく、搾取する側ではないでしょうか

十二月二十六日。 時刻が二十二時になったところで集中力が途切れた。 職場から指定のホテルへ直行し、部下の如月と落ち合って仕事を始める。 コンサルティング部門のプロジェクトとは違い、こちらは在籍している会社ではなく朝比奈家上層部からの仕事だ。 海輝にとっては――こき使われて遺憾ではあるが――此方こそが本業という感覚である。 「如月君。思ったんだけど、僕って結構搾取されてないかい?」 「海輝様は搾取される側ではなく、搾取する側ではないでしょうか」 考えるそぶりも無く即答される。 何時もなら、もう少しソフトな言い方をする如月にしては随分ストレートだ。 「成程ねぇ。君、疲れてるんだねぇ」 グループ企業内でも業績悪化が原因で、負債が増え続けた物件の再建を任され去年の春まで続いた大型プロジェクト。 情報収集、分析、資料作りから始まり交渉人に選出された時点で、ある意味三途の川が見えたが渡りに船の申し出だった。 一族中枢に存在する若狭の教育を経たなら出来る筈だと無理難題を積み上げられ、一瞬白目を剥きかけた。 苛烈を極めるスケジュールに失敗を許されない交渉。 それでも音を上げる事だけはしなかった。 意地と根性以上に欲しい物があったからだ。 朝比奈 錦だ。 錦を手に入れる為の地盤作りに、錦を蹴落とした朝比奈上層部の鼻っ柱をへし折る地位が欲しくて死に物狂いで働いた。 いびりだと若狭は笑っていたが、悲観することは無い。 これはチャンスだ。 海輝を幹部候補へ推薦した直属の上司、二階堂は能力重視の米企業で働いていた経験からか、新人研修を行うなど手順は踏まず即戦力扱いで大学生の海輝を徹底的に鍛えあげた。 その結果、海輝は称賛と共に予想通り扱使う宣言をされた。 「流石、若狭様が教育しただけはある。期待以上の働きだったから、もう一件頼むよ。君『オールマイティ』に働けるから、取り敢えずコンサルティング部門で暫く働いて」「新規事業と買収事案には立案と交渉に選出されてるから頑張ってくれ。なぁに、君なら出来るさ」 「他の業務も回すから掛け持ちになるけど。え? 僕ってどの部署のポジションだって? うぅん。『何でも屋さん』っていう部署造る? あっはっは。冗談だよ。あ、ホテルの件は我々があとやるから」 等と美味しい所を持っていき、海輝をフルに扱使う宣言をしたのちに、二階堂から「アジア統合部門の席を推薦する」と言われ「君が今担当している業務は今年度の内に終わらせておけ」と言葉が続く。 無慈悲過ぎる。 撤退の声が大きい中で末期になったのでよろしく、と言われ投げられた仕事である。お花畑共にも言ったが、そんなに簡単にいくものではない。 おまけに能無しの所為でスケジュールが重なりまくり、かなり余裕がないが何とかせねばならない。 朝比奈側の部下が半死半生で、コンサルティング部門のチーム仲間は多分死ぬだろう。海輝としては錦と言うご褒美もあるので、全員が再起不能な状態になっても全く問題ないのだが、多少の情は有る。

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