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――本当に恋とは、何度も落ちる物だ。
あどけない造りの顔に大人びた表情を乗せる。
ドキリとする様な、眼差しだった。
「お前が俺に教えてくれた幸せになれる方法」
「そうだね。幸せにはなれる。でも僕が世界一幸せになれるのは君がいるから。錦君が居ないと僕は世界一幸せになれないよ。世界一大好きな錦君が世界一美味しいご飯を食べさせてくれるから世界一幸せなんだよ。錦君が傍に居てくれるだけで僕は幸せなのに、こんなに美味しいご飯まで作ってくれるなんて、僕来世の幸せまで今使っているのか、前世で世界を救ったんだと思う」
力説すれば錦が小さく吹き出し、くすくすと笑う。
思わず箸を落としかける。
こんな風に笑う姿を見たのは初めてだった。
「お前、いくらなんでも大袈裟だろう。昨日と言い今日と言い、それはただの贔屓目だ」
暫く楽しそうにしていた錦が、ふと不思議そうな顔をして「何だ、その顔」と首をかしげる。
――本当に恋とは、何度も落ちる物だ。
「おいっ大丈夫か? 醬油零してるぞ。少しだけど塩使ってるしお浸しは別に醬油をそこまでかけなくても良いと思う。……疲れてるのか?」
たしかに、昨日は一睡もできなかった。
錦の寝顔を眺めていたらいつの間にか朝が来ていたのだ。
怪訝な面持ちをしこちらを見つめてくる錦をまじまじと見つめ返す。
先程の笑顔は無い。いつもの澄まし顔だ。
可愛い。
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