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春がお前の最後だ。
「正直この謳い文句に俺は疑心を持っていたが、実際に挑戦した主婦が『夫から「惚れなおした」と結婚十年目で久々に言われました』と喜びのコメントをしていたから間違いはないと確信し、投稿動画からヒントを得て作ってみたんだ。あ、でも、ちゃんと自分でも考えたぞ」
何この子。
可愛すぎるんだが。
亮二、お前は錦君に感謝しろ。
彼に免じて年越しだけはさせてやる。
炎上は来年の春まで延期だ。春がお前の最後だ。
海輝は亮二抹殺計画を立てながらも、錦の可愛さで嫉妬を中和させていく。
ランチボックスを胸に抱え、錦の肩口に顔を埋める。
「うぅ、仕事やだぁ」
始めて出勤が辛いと思った。
「行ってらっしゃい」
「つれない……でもそこも良い」
ぐりぐりと額を頬から首筋に押し付ける。
「大型犬が居ればこんな感じなのか」
「だいしゅき」
「お前は時々赤ん坊みたいになるな」
「錦君のおっぱい吸いたい」
「……お前は色々残念な男だがそこも愛嬌なのだろうか」
「しゅきぃい」
「知ってる」
「亮二よりも?」
「亮二の動画は参考になるが亮二自身には別に興味は無い。お前以外特に興味は無い」
さらりと返すが、ほんのり耳朶が染まるのを見て海輝はついに泣き出した。
尊い。
錦のお陰で一人のうら若き料理研究家の人生が守られた事を、誰も知らない。
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