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海輝は現金な男なので、妄想だけですぐに機嫌がよくなった。

――あの錦君が、彼もイチコロのお弁当メニューを見てるとか……海輝の海輝君が大暴走しちゃうぞ。 空腹と興奮に息が荒くなる。 恋人が作るものは何でも美味しく感じるが、自分に喜んでもらいたくて作ったと言う好意が加われば喜びもひとしおなのだ。 舌だけではなく心も満たされる。 「ど定番の王道ですが、それが逆に喜ばれた」という感謝と喜びのコメントで埋め尽くされた投稿動画を見ながら、ランチベルトに指を引っ掻ける。 どことなく卑猥な手つきだ。ボックスを開き、そして思わず悲鳴を上げる。 勿論喜びの悲鳴だ。 とろりとしたソースが絡むミートボール、断面が美しいインゲンと人参の肉巻き。ボイルされた海老にアスパラガスにブロッコリー。 ヘタが取られたミニトマト。 アレンジを加えたと言っていたが、ほぼ亮二考案のメニューと被りもしない。とても美味しそうだ。 彩が綺麗だとかそれよりも大きな衝撃を海輝に与えのは、刻んだハムの入る卵焼きだ。 「た、卵焼きがハートになってるだと! あの錦君が!? ひぇええええ」 斜めにカットし、切り口を合せハート型に見える様に収まっている卵焼きだった。 亮二の動画を見て参考にしたのはこれだったのか。 あの錦がどんな顔でこれをハートにしたのだろう。 恥かしそうに。それとも淡い笑みを浮かべて? 恐らく何時もの糞真面目で真剣な表情で、おかずを詰めていったに決まっている。ギャップ萌えだ。 「色彩百点、配置も百点、味は絶対美味しいから、オール百点だよ錦君」 ご飯に海苔で「オツカレサマ」と書き、さらにクラゲまで描いてますけど、下手くそで可愛い! そして、何て優しいんだ! 錦の半分は優しさで出来ている。 博物館に展示したい! 海輝はプルプルと震えて悶える。 錦に今すぐ会いたい。仕事を放り出して帰れば、欲望のまま役目を放り出したと軽蔑されるだろう。 耐えろ、耐えるんだ。 幸せなのに、耐えないといけないとか正直意味が分からない。 分からないが、確実なのは、その愛してやまない錦を今夜絶対抱けるのだ。 「今夜、ついに錦と……はぁはぁ。が、頑張れ自分」 きっと、お疲れさまと仕事納めの海輝を労わり、ベッドの中で海輝の導かれるままに…… 「に、錦君! そんな大胆なポーズを!!」 海輝は現金な男なので、妄想だけですぐに機嫌がよくなった。

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