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第12話 嘘が下手

 ようやく涙は止まってくれた。  言われたことを理解するのに数秒を要する。  驚き過ぎて、リアクションできなかった。 「創。大丈夫か?」  繋いだ手を離さずに、千歳は俺の隣に座った。  何を言われても反応ができない。頭が追いつかない内にもう一度手に力を込められて、それでようやく我に返った。 「え……本当?」 「うん」  千歳はほんの少し赤くした頬をしている。 「だって千歳、そんなこと言われても困るって顔してた」 「ただ単に驚いただけじゃん?」 「千歳、俺のことが好きなの?」 「うん」  躊躇なく返事をされると、逆に怪しくて信じ難い。  だって目の前の人は、照れてはいるものの、妙に落ち着きを払っている。言葉数も少なくて、何を考えているのか分からない。  泣いている俺を放っておけないだけで、慈悲や同情といった感情から言っているのではないか。 「そんなんじゃないから。安心しろよ」  訊けばそう教えてくれた。  俺が初恋なのだ、ということも。 「嘘……千歳、今まで人を好きになったことないの?」 「あったけど、お前と同じで、本当の初恋相手は創だよ。さっき爺ちゃんと話してて思ったけど、今まで好きになった人って単なる一目惚れっていうか……幸せになって欲しいって思ったのは、創だけだから」  田んぼの向こうに、小指ぐらいの大きさでお爺さんの姿が確認できた。  千歳はお爺さんと色々と話しながら、改めて自分の感情に気付けたらしい。  言われても、まだ夢を見ているようで実感がない。まるでドッキリを仕掛けられているような気がしてならないのだ。   「創、俺の言うこと、あんまり信じてない?」  素直に小さく頷くと「だよな」と繋いでいる手により力を込められた。 「今まで俺、傷付けるようなことばっかしてたってことだよな。お前に彼女が出来た時とか、一緒に暮らそうって提案した時とか、本当は苦しかったはずなのに俺に本音をずっと言えなかったんだろ?」  千歳が好きだから、怖くて本音が言えなかった。  俺が彼女を作っても平然とした態度の千歳に対して勝手に怒ったり悲しんだりして。  好きになってから今まで楽しい時もあったけど、何気ない言葉や態度に傷付いたこともたくさんあった。 「今まで傷付けた分、これからたくさん創のことを大事にする。もう泣かせたくないんだ。だから一緒にいよう?」  大事にする、と言われて、これ以上泣きたくないのにまた泣いてしまった。  そうだ。千歳は嘘を吐くのが下手だ。  その時感じたことを、そのまま口にしている。  千歳が話していることは全て事実だ。 「……俺はっ、これから千歳と一緒にいても大丈夫なの?」 「大丈夫、好きだから」 「俺、男だよ」 「知ってる」  たまらない気持ちになって、千歳の手をぎゅうぎゅうと握りしめた。ううー、と、喉の奥から掠れた声を出しながら、泣き続けた。 「俺、千歳のことで、今まで何回泣いたかわからないよ」 「悪かったな。泣かせてばっかりで」 「ううん、本音が言えなくて辛かった時もあったけど、もうそんなのは吹き飛んだよ。千歳の気持ちが聞けて、嬉しい」 「そうか。じゃあもう泣かないで笑ってくれよ。俺、お前が泣いてるの見るとやるせなくて苦しくなるから」 「うん」  ──ありがとう。  口の端を上げて笑顔を作ると、千歳も満足気に目を細めて微笑んでくれた。

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