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トドメを刺してと君は言う【前編】 7
「……なぁ、お前さっきからめちゃくちゃ着信来てねぇ?音は鳴ってないけど…ずっと画面光ってる」
「え?」
爽は目の前のテーブルに置かれた俺の携帯を指差す。
「ああ…なんかね、ここ1週間ずっとこうなの」
「え?ずっとこうって…?」
「なんていうか…非通知の…無言電話…?」
「ハァ!?」
「いや…無言じゃないかも…出たらなんかはぁはぁ言ってるから…、苦しそうな感じ…?でもこっちから喋っても何も言わないし…やっぱ無言電話になるのかなぁ……?」
爽は血相を変えて俺の携帯を手に取ると、着信履歴を確認する。
「えっ…?爽?」
「あき…!!なんで早く言わなかった!!?これストーカーだろ!!」
「エッ!!?そーなの!!?」
「気付いて無かったのか!!?」
「だって…無言電話なんてよくあるから…」
「ハァ!?」
「よく来ない?なんか苦しそうな無言電話」
「…………お前、今までよく無事に暮らせてたな」
「…はい?」
爽の慌てっぷりに、逆に驚く。
だって、携帯を持ったその日から無言電話なんてしょっちゅうだったし…それが普通なんだと思ってた。
それにしても、最近はかかってき過ぎだけど。あまりにもうるさいから音もバイブレーションも消してしまった。おかげで重要な連絡も見逃しがちになって、結構迷惑してる。
「あきは……自分がめちゃくちゃかわいい自覚あるか…?」
「……なにそれ、バカにしてる?」
「……よーし、わかった…お前がめちゃくちゃ無自覚なバカだってことが今わかった!!」
「やっぱバカにしてるじゃん!!!ひどい!!」
俺の猛抗議を丸っと無視して、爽は唸りながら考え込んでしまった。両腕を組んで眉間に皺を寄せる王子様の姿は、なんだか新鮮だ。
「警察…行こうか」
「ハァ!?こんなことで!!?いいよめんどくさいっ!!」
「こんなことじゃねーよ!!!なんかあってからじゃ遅いんだぞ!?」
「そんな…!やだよ俺っ…警察なんていったら無駄に時間かかるだけじゃん…」
「あき…!」
「ねぇ!今回は見逃して?今ゼミの課題でめちゃくちゃ忙しいの!!お願い!!」
「……」
「爽っ…」
「………はぁ……わかった」
渋々ながら了承してくれたみたいで、俺はホッと胸を撫で下ろす。
そりゃ、ゼミの課題で忙しいのもほんとだけど…でも一番の理由は、爽との楽しいおうち時間を邪魔されたく無かったから。警察に行ったら事情聴取でたくさん時間を取られるだろうし……ストーカーなんかのせいで、爽との時間が減っちゃうなんて絶対ヤダ。ただでさえ最近爽は特に仕事が忙しいようで、思うように会えなくなってきたのに。一緒の家に住んでてこれだもんな…商社って、めちゃくちゃ激務だ。
「とにかく、あき気を付けろよ?着信の頻度からすると相当お前に執着してるみたいだし……もし何かしら接触があったり、エスカレートするようなことがあればすぐ俺に言えよ?」
「え…?大袈裟だよ爽…そんなこと、」
「あき、約束だぞ」
「……わ、わかった」
爽の鋭い目つきに、つい押し切られてしまった。
こんな、無言電話するような奴相手にするだけ無駄だと思うけどなぁ。どーせ、何かする勇気なんてないに決まってる。
爽は立ち上がると、窓際まで歩いて行き部屋のカーテンを閉める。
「あき…もう寝るんだろ?ベッドおいで」
「えっ…?」
「お兄さんが寝かしつけてやろう」
「あはっ!なにそれ!?」
「いいから…ほら、おいで」
「ふふっ…はぁい…!」
爽は俺のベッドをポンポンと叩いて待つ。その姿がなんだかおかしくて、俺は笑いながら歩み寄る。
俺がベッドに入ると、爽は俺の身体に布団をバサリと被せて優しく微笑む。その柔らかい表情に、妙に安心してしまった。
「あき…明日も大学?」
「うん……昼からだけど…」
「そっか…ゆっくり寝ろよ」
「ん…ありがと………でも、俺…爽のお弁当作るから…早めに起きる…」
「……無理すんなよ?」
「無理じゃないよぉ…俺、やりたくてやってるの…!」
「………ん、そっか…ありがとな」
爽は俺の前髪をかき分けて、額にチュッとキスを落とす。
それに驚いて爽の顔を見ると、ニッといたずらっぽく笑ったあと、"おやすみ"と小さく呟いて去って行った。
「…………それは…反則じゃん…」
思わず、心の中で呟いた言葉が口から飛び出た。
あまりにも王子様すぎて、取り残されたあともひたすら爽のことばかりが頭に浮かぶ。
いや、待ってよ……
なんで、俺……こんなドキドキしてんの…?
どうして…?
俺は高鳴る胸に必死に落ち着けと念じて、布団を頭から被る。同時に愛用の抱き枕を引き寄せて、顔を埋めた。
いつもなら布団に入った瞬間寝落ち出来るくらい寝付きがいいのに、爽の事ばかり考えていたら目がギンギンに冴えてしまう。
明日も朝早いのにやばい…!と焦れば焦るほど眠れなくて、仕方なく脳内で必死に羊を数えて………
とんでもない羊の群れが出来上がった頃……
俺はなんとか眠りについた。
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