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トドメを刺してと君は言う【後編】 2

「え……好きなタイプ?」 「そ!暁人ってどんな人がタイプ?」 絶品のチーズケーキを食べ終わった頃、突然恭ちゃんにタイムリーすぎる質問をされてフォークを落としかけた。同時に何故か隣で、爽がブハッと勢いよく紅茶を吹き出す。 「わっ!?爽、大丈夫?」 「…んっ…ご、ごめん大丈夫…!おい恭介お前…!」 「まぁまぁ、いいじゃん!ね、教えてよ暁人」 ニコニコしながら俺を見つめ問いかける恭ちゃんに…どうしたものか……と考える。 "好きなタイプ"……っていうか、 "好きな人"なら……… 隣にいる。 だけどこの恋は、ついさっき始まって…無理矢理終わらせようと決めた。そうじゃなくったって…本人の前で全てを正直に話すことはできない。 でも……わざわざ嘘もつきたくない。 「あき、嫌なら別に答えなくても…」 「えーっ!!!知りたいじゃん!!!教えて暁人ー!!!」 「うるっせぇな!!お前それセクハラだからな!!?」 「ええーっ!!?これセクハラなの!!?」 「そうだよ!!!そもそもあきはめちゃくちゃピュアなんだよっ!!好きな人すら出来たことないって前に…」 「…………いる」 「「……え?」」 俺の言葉に、大人2人がキョトンと真顔になる。 「タイプとかは特にないんだけど……好きな人は……いるの、俺……」 「………え…あき…恋したことないって……」 「あ、……うんそうだったんだけど…最近出来た…っていうか……自覚したっていうか……あ、でも……もう失恋しちゃったけどね」 「………は」 「……うわ、マジ……?し、失恋?」 「うん……でもね、たぶんその人のことずっと好き……この先もずっと、片想いでいいかなって…思ってる」 爽のこと、困らせたくない。 俺のことなんて、好きになってくれなくていい。 ただ、そばにいたい。 せめて……いまだけは。 さっき自覚したばかりの爽への気持ちを心の奥底に沈めて、そっと鍵をかける。 これでいい。 「…………えーっと……、あー…」 「……?恭ちゃんどうしたの?」 「いやぁ、まさか暁人に好きな人がいるとは…思ってなくて…俺めちゃくちゃ余計なこと聞いちゃったなって……」 「え?余計なこと?」 「……そ、爽?俺、帰るな…?」 「……」 隣を見ると、爽はすごく険しい顔でテーブルを見つめている。 え…?なんで……? それから爽はその場所から全く動かなくなってしまって、俺は仕方なくひとりで恭ちゃんを玄関まで送ることにした。 玄関で靴を履く恭ちゃんを後ろで見守る。 爽ってば見送りにも来ないなんて…一体どうしたんだろ…? 「恭ちゃん!せっかく来てくれたのに…なんか…ごめんね?」 「………いや、むしろ…こっちこそごめん……とんでもなく余計なことしたっぽい…俺」 「えっ?」 「……暁人…」 「ん?なぁに?」 「暁人の好きな相手って……あ…いや、俺がこれ以上首突っ込むことじゃないか…」 「…?恭ちゃん…?」 「爽のこと…頼むな?」 「えっ…、うん」 「それと……足の怪我お大事に……」 「……うん、ありがとう」 常に元気いっぱいの恭ちゃんがいつになくテンションが低めで、なんだか心がザワザワする。恭ちゃんは俺の頭をポンポンと撫で力なくニコッと笑うと、そのまま何も言わず帰っていった。 どうしたんだろう……… 俺は首を傾げながらリビングに戻る。 いまだ動かない爽の元に近寄ると、やっとこちらを見てくれた。 「爽……、ほんとにどうしたの?恭ちゃん帰っちゃったよ?」 「………」 「また具合悪くなっちゃった…?」 「………いや、」 「……?あ、そうだ!」 「ん…?」 「ほら、ずっと爽が話したかったっていう話……今聞いていい?」 爽はいつになく冷めた瞳で俺を見る。 今まで、こんなに感情のない爽の顔を見たことがない。 一体どうしたの…?爽…… 「………その話はもういい」 「……え?」 「もう、話す必要……なくなった」 「なんで…?爽、俺…」 「あき、明日警察行こう…さっさとストーカー捕まえてもらわなきゃ安心できねぇだろ」 「………え、うん」 「じゃあ、俺もう寝るわ」 「えっ?夜ご飯は?」 「いらない」 突き放した言い方に驚いて、立ち上がった爽を見上げる。いつだって俺に甘くて優しかった爽の、今まで見たことのない態度に焦る。 立ち去ろうとする爽の腕を掴もうと手を伸ばしたが、サッと避けられて心がズキっと悲鳴をあげた。 「えっ……?」 「あき…」 「……なに?」 「………あんまり、さわ、るな…」 「は……?……なん…で……?」 さっきまで、あんなに優しかったのに。 なんで? どうして…? 俺、一体どんな地雷踏んだ…? 「爽……?な、…なんでそんなこと…言うの…?」 「……別に」 「やっぱり、具合悪いんじゃ…」 俺は体温を確認しようと、爽の額に手を伸ばす。だが、手が額に届くよりも先に、爽の腕によって思い切り振り払われた。 バシンッと、乾いた音がリビングに響く。 「……ごめん、あき……」 「…え、」 「…寝る」 「……な、んで…?爽………?」 「おやすみ」 凍えるように冷たい声で呟かれた一言を置いて、リビングから出て行った爽の背中を見送る。理解が追いつくまで、俺は数十秒その場に立ち尽くした。 これは……どう考えたって…… 完全に、嫌われた。 走って部屋に戻り、鍵をかけ布団に包まる。 ドバドバと涙が溢れ出てきて、止まらない。 好きだってわかったばっかりなのに、嫌われてしまった。好きになってもらわなくていいとは思っていたけど、嫌われる予想なんて全くしていなかった。 理由が……全然わからない。 こんなの、無理。 死んじゃう。 爽に嫌われたら……俺生きていけない。 近くにいることも、もう許されないの…? こんなの…一時的なものだよね? そうでしょ…爽……? 明日になればきっと、爽の機嫌も良くなって…元に戻れる。絶対。 だが、そんな俺の期待は脆くも崩れ去り………そこから……俺にとって地獄とも思える日々が始まることになった。

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