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トドメを刺してと君は言う【後編】 3

俺が爽を好きだと自覚して1ヶ月。 同時に、 爽に嫌われてしまって1ヶ月。 あの夜から爽の態度は一変し、家で顔を合わせる頻度も会話をする頻度も極端に減り…触られることは一切なくなった。 ……辛かった。 あれだけ甘ったるい愛情を向けてくれていた爽に、一瞬にして嫌われて……死ぬほど傷ついた。一応毎日顔を合わせてはいたし、会話が全くなかったわけじゃない。極端に爽の言葉が冷たいとか棘があるとか…そういうわけでもない。 けれど、爽の瞳が俺を映すことはほとんどなく、あからさまに俺を避け、距離を置き、他人のように振る舞う爽の姿に…俺は毎晩自室で泣いて暮らした。 それでも、 俺はこの家を出て行けなかった。 もしかしたら、次会った時、また前みたいに笑いかけてもらえるかもしれない…抱きしめてもらえるかもしれない……なんて毎日期待して…その度に傷付いた。 人を好きになることがこんなに辛いなんて知らなかった。 どんなに冷たくされて手を振り払われても、俺は爽を好きでいることをやめられない。 爽が……好きで好きで、たまらない。 この恋は実らなくていい。 だからせめて、前の関係に戻りたい。 爽の、優しい笑顔が……もう一度見たい。 「はーん………おっ前そんな扱いされててなんでそいつのこと好きでいれんの?ドMかよっ」 「だ、だってぇ……好きなものは好きなんだもん……」 「訳わかんねぇ…」 「要も好きな人出来ればわかるって!」 「はぁ?先輩面すんな童貞」 「ちょっと!!そこはいじんないでってば!!!!」 「やーだっ」 大学は前期末のテスト週間に入っていて、講義が無かったので要と一緒に空き教室でお弁当を食べている。家でテスト勉強するとダラダラしちゃうから、わざわざ学校まで来て勉強することに意味がある。まぁ、要は3年でほとんど単位も取り終わってるから、勉強する必要もなくて…俺に付き合って遊びに来てるだけなんだけど。 今日は要の分も一気にお弁当を作ったから、完全にサンドイッチパーティ状態。友達とお昼食べるのって、最高に楽しい。 クスクス笑いながらサンドイッチを頬張る要は、今日もとっても綺麗だ。 「あ、次これ着てみて暁人」 「わ!!これこないだ描いてたやつ?すごーい!!かわいい!!要ってほんとお洋服作るの早いね~」 「早くねーよ寝てねぇだけ…三徹した」 「ハァッ!?寝なよ!?」 「才能が俺の睡眠を妨害する…」 「…あながち間違ってないからなんも言えないんだけど」 「突っ込めよ!!俺が寒い奴みてぇだろ!」 「あははっ!要超勝手~!」 俺は新作に着替えながら、美人デザイナーにブーイングを送る。 要の作る服は本当にセンスがいい。初見だとかわいすぎるかな?って服も、着てみるとサイズ感とデザイン性が絶妙で、男の子が着ても違和感なく着こなせる。 さすが有名デザイナーの息子…と思うのと同時に、今の時点で既に母親とは違うタイプの才能の片鱗が見える。要の作る服は…決して誰にでも似合う服じゃ無い。けれど、ハマれば120%の力を発揮してくれる…唯一無二の魅力がある。 要の服は、着た人を輝かせる。 「うん、最っ高にかわいいよ暁人」 「えへへ~嬉しい…!俺ほんと要のセンス大好き!」 「だよなぁ~?俺ってマジでセンスいい!」 「謙遜しないんかい!」 「しなーい!俺天才だもーん!」 「あははっ!もー!要は自信満々すぎ!!そーいうとこ好きだけど!」 2人で向かい合って、ニッと笑い合う。 要がいてくれてよかった。爽とこんなことになってしまった今、要は俺にとって大きな心の支えになってくれている。 要には爽とのことやストーカーの件など全ての事情を話していて…誰にも言えないような 相談も聞いてもらえて、本当に助かってる。 こんな素敵な友達と巡り会えて、俺は心底ラッキーだ。 「そういえば…お前、ストーカーはどうなった?」 「あー…警察行った後は、特に動きないよ?非通知着信も今は来てないしね…一応パトカーが家の周り巡回してくれてるみたいだけど…捕まってはないかな」 「ふーん…でも、気を付けろよ?またいつ来るかわかんねぇし」 「でももう1ヶ月も来てないからなぁ…俺に飽きちゃったのかも」 「ストーカーに飽きるとかあんの?」 「さぁ…ストーカーの気持ちとかよくわかんないよ俺」 「そりゃそうか」 要は頬杖をついて考え込む。 要って…改めて見ても本当に綺麗。俺みたいに女に見えるってタイプじゃなくて、男性としての美の最高峰って感じ。スタイルもいいし、ハイトーンの髪も似合ってるし…こう、セクシーな雰囲気。顔の作りも華やかで、誰が見たって美人だ。要みたいな派手な美人って、何してても様になって羨ましい。 「……あ!」 「…ん?あ…、旦那?」 携帯の画面が光ったので覗き込むと爽からのメッセージだ。こんな関係になってしまった今でも、爽から連絡が来ると毎回舞い上がってしまう。こういうとこ…俺ってマジでおめでたい。 「もうっ…要、その呼び方やめてって言ってるじゃん!俺たちは親が勝手に決めた許嫁!!本当に結婚するわけじゃないし……それどころか……完全に俺の片想いなのに……」 「だって、お前旦那の名前教えてくれねーじゃん」 「えっ?……あれ?そーだっけ?」 「そうだよ」 「そっか…言うの忘れ………………あ、」 「ん?」 爽からのメッセージを開いて、あからさまにガッカリしてしまう。今日も、夜ご飯は不要らしい。あの日以来、夜ご飯を共にするというルールすら守ってもらえない日が増えた。律儀に連絡してきてくれるのは嬉しいけど…このメッセージを見るたび毎回傷付いてしまう。 それでも、メッセージが来るたび…また優しい言葉をかけてもらえるかも…なんて期待しちゃう俺って…ほんとバカ。 「はぁ~~…また、夜ご飯振られた……」 「あちゃー……もうそんな奴愛想尽かしちまえばい…………え?………爽?」 「えっ?」 「この………、"樋口 爽"って……え…?コイツがお前の旦那?」 「だから許嫁だってば!」 「コイツ……父親が社長で、母親が呉服屋の娘…だったりする……?」 「えっ!?なんで知って……え?………もしかして、要…爽と知り合いなの!?」 俺の携帯を覗き込んだ要は、呆然としている。 「知り合いどころか……俺の母親と爽の母親が…従姉妹だから…」 「じゃ、じゃあ…親戚なの!?」 「再従兄弟(はとこ)だ」 「エーーーーーーッ!!!?」

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