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トドメを刺してと君は言う【後編】 5
「あきー?帰ってるかー?」
なんで今日に限って…!!!
普段は帰ってきたって声なんてかけてこないくせに…!!!こんな時だけ…!!!
スタスタとこちらに向かってくる足音が聞こえる。
やばい…!!見つかる…!!!!
「オイあきっ…玄関のドアの前にコンシェルジュがいたけど…なんか知って………え?」
ソファの下で倒れ込む俺を見て、爽は見たこともないような顔をする。
案の定、見つかってしまった。
最悪だ………、
「あき!!!?お前、どうした!!!?」
「あっ………、見な、いで…っ」
「は…!?」
「見な…いでっ…爽っ……」
両手で顔を覆って下半身を隠すように丸くなる。さっきよりずっと身体がゾクゾクしてきて、ガタガタと手も声も震えている。
爽は慌てて俺を抱き上げて、ソファに横たわらせる。爽に触られた瞬間、身体が大袈裟にビクッと跳ねた。
こんな姿見て欲しくないはずなのに……爽に触って欲しくてたまらない。
頭が…おかしくなりそう……
「あきっ……一体どうしたんだよ!!?」
「わか、ないっ…爽から貰った……チョコ食べた…だけっ…」
「チョコ…?」
俺は震える指先でさっきまで食べていたチョコの箱を指さす。
爽はそれを見て少し考え、予想外の言葉を口にした。
「…………あき」
「……ん、な…に」
「俺、お前にチョコなんて渡した覚えねーぞ…」
「えっ……?でもっ…爽から…、だって…!だから、俺っ…」
「…誰から受け取った…?」
「……へ?」
「誰から渡されたんだ!!!」
真剣な顔で詰め寄られて、ゆっくり…時間をかけて全てを話す。呂律がうまく回らず、かなり舌ったらずになってしまった。それを爽は凄い形相で聞いていて、ちょっと怖かった。
「…………そういうことか…」
「はぁっ……はっ、……えっ?爽…っどういう、こと…?」
「ハーーーーッ……全部わかった……コンシェルジュの山川…アイツだお前のストーカー」
「……………ハァ!?」
爽の出した結論に驚きすぎて、声が裏返った。
まさか……そんな………、
あの優しかった山川さんが…?
「まず、俺は山川にチョコレートなんて託してない…つーか…あきに何か渡したいなら帰ってきてから自分で渡すだろ普通」
「……たし、かに……!」
「あと、さっき俺が帰ってきた時アイツドアの前でなんかやってたんだよ……今思えば…鍵……開けようとしてたんだと思う」
「……へ」
「コンシェルジュなら、やろうと思えばマスターキーで中に入れる………クソっ…胸糞悪りぃ…職権濫用もいいとこだろっ…」
「……」
爽の話にゾッとする。
じゃあ……、もし爽がタイミングよく帰ってきてなかったら……俺…山川さんに……
「あきの話聞く限り、山川もあきも今日は俺の帰宅が遅いと思ってたんだろ?たぶん…それで決行したんだろうな……」
「待っ……て、山川さんが……ヤバい人、なのは…わかったけ、ど……ハァッ……なんでそれで………ストーカー…?」
「……………黒いキャップ……かぶってたんだよ」
「………え?」
「さっき、うちのドアの前にいた時……黒いキャップかぶって全身真っ黒だった…あき前言ってたよな?ストーカーが黒いキャップかぶってたって」
「………言っ…、た」
「…服装から見ても、ここまでする執念を考えても……山川がストーカーだって考えた方が自然だ」
上手く回らない頭の中で、うわ…爽ってやっぱり頭いい…と呟く。
「あき…今から警察…呼ぶけどいいか?」
「……!?」
「お前は病院に……」
「ま、って……!!!や、だ……」
「けど…!」
「見られ、たくないっ………!!こんなのっ…誰にも知られ…たく、ないっ……他人に知られるくらいならっ……死、んだほう、が…マシっ……」
爽は、俺の股間の膨らみになんてとっくに気付いてるはずだ……
本当はこの姿を一番見られたくない相手は…爽に決まってる。だけど、こうなってしまったらもう…爽に助けを求めるしかない。
「たす……、けてっ……ッ…あ…っ」
「あき……」
「いか、な、いでっ…爽っ……身体っ…熱い……」
爽が俺に触りたくないのはわかってる。それでも、爽に縋るしかなかった。
むしろ、俺は爽にしか……触って欲しくないからっ……
爽は数秒困った顔をした後、テーブルに置きっぱなしになっていた残りのチョコレートのひとつを割って、匂いを嗅いだ。
「……はぁ、……くそ、この香りやっぱり……」
「…っ、…な、に?」
「……あき…多分、チョコレートに入ってたのは…性的な興奮作用のあるドラッグだ…」
「…っ、はぁっ……う、んっ…」
「かなり薬が回ってるみたいだし…時間が経たないと治らないと思う…だから、今出来るのは…抜くことだけだ」
「……っ…ハァッ…うんっ…」
「……あきの部屋まで運ぶから…一人で出来るか?」
「……えっ?」
「一人で…抜けるか?」
俺は潤んだ瞳で爽を見上げる。
てっきり、助けてくれると思っていたのに…やっぱり…俺になんて触りたくないんだ。
そう思ったら、悲しくて悲しくて…涙がボロボロと溢れ落ちる。
「あっ…あき!!?」
「さ、わって……っ…!爽…っ」
「………えっ」
「ひとり、じゃ…ッ…でき、ないっ…!熱いっ……くるしっ…おねがっ…」
「でっ…でもっ……俺はっ…」
「み、すて…な、いでっ……!」
涙が滝のように流れていく。
ここまで嫌われていたなんて……その事実も悲しいし、それなのにこんな醜く縋っている自分も惨めで…余計に泣けた。
それでも、身体の熱を解放したい欲望が押し寄せて…もう恥ずかしさや虚しさを感じる余裕も消えて行く。
行かないで、お願い…
俺に触って…!
そう願いを込めて、爽の腕を精一杯の力でギュッと掴む。
爽は苦しそうな顔で俺を見たあと、一度ゴクリと唾を飲み込んだ。
「…………あき、………ごめんな」
「……え?」
「……お前が気持ちいいことしか、絶対しないから……許してくれ……」
爽の綺麗な顔が近づいてきた、と認識した時にはすでに唇を塞がれていた。
ビックリしすぎて声が出ないのに、頭の中では"あ、ファーストキスだ"と冷静に呟く自分がいてその温度差に混乱は加速していく。
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