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トドメを刺してと君は言う【後編】 7
「あ、…れ?」
「………あき?起きたか?」
薄目を開けると、爽がこちらを見て微笑んでいる。
……またこんな穏やかな顔が見られるなんて……嘘みたい。
周りを見渡すと、どうやら俺の部屋のようだ。俺はベッドに横たわっていて、爽はその横で椅子に座り何か紙の資料を見ていたようだ。仕事中…?
「薬……抜けたみたいだな…」
そう言われてみれば、もう身体は熱くない。代わりにとんでもない疲労感と、性器のチクリとした痛みだけが残っている。完全に…出し過ぎたみたいだ。
あの後…俺、何回射精したんだろ……
全然覚えてない。
「俺………どのくらい寝てたの…?今、何時?」
「今は…23時…大体4時間くらい寝てたよ」
「………そんなに……」
「あきが寝てる間に警察に連絡して…来てもらった…もう、帰ったけど」
「えっ!!?」
「大丈夫…チョコの件は伝えてない…ストーカーが山川だったことと、うちに入ろうとしてたことだけ伝えたから……捕まえたら連絡くれると思う」
「そ、そっか………」
「つーか…早く捕まえてくんねーと…困る……俺が、殺しそう」
「……へ」
「あ、…いや……なんでもない………だから…、もう、安心していいぞあき」
頭を撫でられ、再び涙が溢れる。
もう……涙腺ゆるゆるすぎるよ俺。
だけど嬉しくて…全然止まらない。
ストーカーが捕まることより、爽にまた頭を撫でてもらえたことが嬉しくて……泣ける。
「医者…呼ぼうかと思ってたけど…どうする?」
「あ…もしかして爽が熱出した時の…あの先生?」
「そう…呼んでいいか…?」
「………ううん、いい……もう、何ともないし…やっぱり、抵抗あるから……」
「そっか……わかった…でももし何かちょっとでも異常感じたら言えよ?すぐ医者呼ぶから」
「ん…ありがと」
爽はニコリと微笑み、椅子から立ち上がる。
「俺は部屋で仕事してるから、して欲しいことあったら…すぐ携帯で呼んで?」
「えっ…?爽まだお仕事するの…?」
「ああ……、今日早く帰ってきたのは家に置き忘れた資料取りに来たからでさ、本当は会社戻る予定が…戻れなかったから家で仕事終わらせなきゃいけないんだよ」
「………そんな…ごめんっ…!俺のせいでっ……!」
「お前のせいじゃねぇって…ストーカーのせいだっつの!…ってか…資料置き忘れてよかったよ…じゃなきゃ…あきを助けられなかった……」
「爽…」
胸が、苦しい……
やっぱり俺……どんなに嫌われてたって
爽のことが…、
「ねぇ……」
「ん?なんだ?」
「……どうして、嫌いなのにここまでしてくれるの…?」
「………は?嫌い?誰を…?」
「爽は……俺のこと、嫌いでしょ……?」
「ハァ!?そんなわけねーだろ!!!」
「えっ!?」
驚きで、口を開けてポカンと爽を見上げる。
えっ………?
俺、嫌われて……ないの…?
「俺がお前を嫌いなわけねーだろ!!!」
「ええっ!?だって、触るなって言ったじゃん!!!!それに、1ヶ月も俺のこと避けてたくせに!!!!」
「それはっ……!じ、事情があって……」
「え……事情…?なにそれ…?」
「なんていうか……、一線を超えないために、必死だったって言うか…その……とにかく、俺がお前を嫌いになるなんて未来永劫ありえねーから!!!」
焦って早口で捲し立てる爽に、面食らってしまう。予想外すぎて、言葉が出ない。
「お前は……これからも一生…俺の大事な人だよ……」
「爽……」
「それは絶対、何があっても変わんねーから……」
爽は俺の頭を再びポンポンと撫でると、ドアに向かって歩いて行く。
俺は思わず飛び起きて、爽に向かって叫ぶ。
「爽っ!!!」
「…ん?」
「ほんとに……ありがとうっ………」
「……どういたしまして」
パタリとドアが閉まり、俺はベッドに突っ伏す。
なにこれっ……
なにこれっ……!!!!
夢!!!!?
俺っ……爽に嫌われてなかった!!!!!!
あまりにも嬉しくて、うー!と布団に向かって唸ってしまう。傍から見たら相当マヌケな自信がある。でも、今はそんなことどうだっていい。
幸せすぎるってば!!!!!!
ついでに改めてさっきのことを思い出して、恥ずかしさでジタバタと暴れる。
俺、爽とキス………しちゃったんだ。しかも、あんな何度も…濃厚なやつを。
キスがあんなに気持ちいいなんて……俺全然知らなかった……
それに………、まだ誰にも触れられたことのなかった身体を…爽にさらけ出して……あんなえっちなことを……!
っていうか…"触って…!"なんて、大胆すぎるだろ!!!!いくら薬でおかしくなっていたとは言え、あんなのっ…!!!!思い出しただけで死んじゃう!!!!!
熱くなった顔を押さえながら起き上がると、着ている服がパジャマになっていることにやっと気付いた。しかも、身体が全くベタベタしていない。
え…あれだけ汗だくになって出したのに……?
もしかして…爽……身体拭いてくれた…?
好きでもない俺のために…あんなことを引き受けてくれた上に…後処理まで……
爽って…一体どこまで優しいんだろう………
俺はゆっくりベッドから抜け出して、床に足を付ける。思っていたより身体が重い。
ふと足元を見ると、先程爽が目を通していた仕事の資料が1枚落ちているのに気が付いた。おそらく、立ち去る際に抜けてしまったんだろう。書いてあることはよくわからないけど、もし大切な資料だったら大変だ。
俺はすぐに資料を持って爽の部屋に向かう。
なんだか、嫌われていないとわかったら急に心が軽くなった。
よかった………
爽の部屋の前まできてノックしようとしたが、中から話し声が聞こえて電話中だとすぐに悟った。…タイミングミスったなぁ。
仕方なく電話が終わるまで待とうと立ち尽くしていると、意図せず会話が耳に入る。爽の声しか聞こえないけど口調からして…おそらく相手は恭ちゃんだろう。
「たぶん………もう、我慢の限界なんだよ…このままあきの近くにいるのは…」
……え?
爽の苦しげな声色に、手足が冷たくなっていくのを感じた。
なに………この会話……
"我慢の限界"……?なにそれ……
ドクンドクンと心臓の鼓動がどんどん早く、強くなっていく。薄暗い廊下でじっと息を潜めながら床を見つめる。
嘘だ……こんなの。だって、さっきまでと言ってることがまるで違う。
俺のこと………嫌いじゃないって……一生大事って……確かに爽は言った。
"我慢の限界"なんて……聞き間違いに……決まってる…!
俺は微かな希望を抱きながらもう一度聞き耳を立てた。
「そうだな……あきとの生活は…もう終わりにしたほうがいい」
爽の無情な一言に、とうとう両耳を手で塞いだ。もう、聞いてられない。息が、苦しい。
ああ、そっか。
俺、やっぱり……大事になんか…されてなかったんだ。
悲しい……、辛い……、
もう、消えたいっ……
爽の部屋の前に、届けに来た紙を置いて静かに自分の部屋に戻る。ツーっと静かに涙がこぼれ落ちて、身体がさらに冷えていく。
なんか、もう全部……どうでもいい。
そのまますぐに外に出られる服装に着替え、携帯と財布だけを手に持つ。足音を立てないように細心の注意を払い、俺は家から出た。
さっきストーカーに薬盛られたばっかりだとか、まだ付近に潜んでいる可能性とか、そんなことはすっかり頭から抜け落ちて、爽の前から消える事ばかりをひたすらに考え……
俺は、今一番会いたい大好きな友達に電話をかけた。
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