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トドメを刺してと君は言う【後編】 8

「暁人さぁ……俺のことこんな雑に呼び出すのお前だけだって…わかってる??」 「……っ…ふっ…ぐすっ…ううっ……」 「はーっ……ノコノコ迎えに来てる俺も俺だよなぁ……ったく…ホラ、早く乗れよ」 「うう~っ!!!!要ぇ~!!!!」 「あーもうそんな泣くなっての!!せっかくのかわいい顔が台無しだろーが!!」 こんな夜中の急な呼び出しにも関わらず、要はすぐにマンション前まで迎えに来てくれた。真っ赤な高級車に乗ったとんでもない美人の登場に、通り過ぎるマンションの住人が面白いようにこっちを見つめている。そりゃそうだ。こんなにポルシェが似合う男…要しかいないもんなぁ… 要は俺を車に乗せると、呆れながらティッシュで思いっきり涙と鼻水を拭ってくれる。 こんな時、助けを求める相手なんて……俺には要しかいない。 「あーあーもう…ぐしょぐしょじゃねーか…」 「うっ、ぐすっ…」 「とりあえず…うち…来るか?」 「……行くぅ」 「ったく……今度は何だよ…爽になんかされたのか?」 要はシートベルトを締めるとすぐに車を発進させる。車自体は何度も見た事あったけど…いつも学校で会ってたから要の車に乗せてもらうのは初めてだ。運転してる要を隣で見るのは、かなり新鮮。 俺は一刻も早くここから離れたかったから…車で迎えに来てくれて本当にありがたい。 「ぐすっ…えっと……爽と………チューしちゃったの…」 「はぁ!!!?なんで!?冷戦状態なんじゃなかったのか!?」 「あと、あの……オ………」 「オ…?」 「オ…ニー…手伝わせちゃって……」 「は?なに?…鬼?おい、暁人勿体ぶんなよ…ちゃんと聞こえるように…」 「だっ……だからっ!爽にっ……オナニー手伝わせたの!!!!」 「……ハーーーーーー!!!???」 要の馬鹿でかい声がキーンっと耳に響いて、俺は思わず手で耳を塞ぐ。 「な…!?なにぃ!!?お前っ…今オナニーって言った!?そのかわいいピンクの唇からオナニーって発した!!!?」 「もー!!!!聞いて要っ!!!」 「お前っ!!!これ以上俺を動揺させんな…!こちとら運転中だぞ!!!?」 いつになくギャンギャン騒ぐ要に、呆れてしまう。確かに冷静に口から出すにはちょっと恥ずかしい言葉だけど…要って俺のことなんだと思ってんだろ…?純情乙女?俺だって、れっきとした男なのに。 「そのあと、嫌いじゃないって…俺のこと大事だって言ってくれたのに…全部嘘だった……ぐすっ……もー!!!爽の嘘吐きー!!!!!」 「ハァ!!!!?ちょ、ちょちょちょちょっと待てっ!!!学校で俺と別れて、今までの間に一体何があってそーなった!?意味わかんねーんだけど!!!!ちゃんと順を追って話せ!!!」 俺は、家に帰ってきてから今までのことを泣きながら事細かに要に話した。 要は運転しながらも、俺の方をチラチラ見て驚いたり怒ったり…とにかくすごく激し目のリアクションで俺の話を聞いてくれた。 要がいてくれて…本当によかったな。親公認で爽とルームシェアをしている手前、実家に帰ることも出来ないし…帰ったとしてもこんなこと、言えるわけない。 もし要がいなかったら………俺、ほんとにどうなってたんだろう。 「…………もう、お前ら……漫画かよマジで……展開が目まぐるし過ぎてついていけねーよ……少女漫画だってもうちょいエピソード刻んでくるぞ…」 「うう~っもー終わったぁー!!!!完全に爽との関係が終わったー!!!!」 「そもそも始まってすらねーじゃん…」 「うわーん!!!!!要もっとちゃんと慰めてよぉ!!!」 「うるっさ…!!なぁそれ…本当に嫌われてんのか?俺にはそうは思えな」 「絶対嫌われてるもんっ!!!!"我慢の限界"とまで言われたら…もう、どうしようもないじゃんっ!!!」 「………はぁ」 車内で散々騒ぎ号泣して、やっと涙が落ち着いた頃、ちょうど要の住むマンションに着いた。車を降り、前を歩く要の後ろをボーッとついて行く。予想していたよりかなりいいマンションで驚いた。 どう考えたって、ひとり暮らしの大学生が住むような場所じゃない。 ………そっか……すっかり忘れてた……要も爽と同じ、超がつくボンボンだったんだっけ…… 「ん?なんだよ、早く入れよ暁人」 「いやー……金持ちってやっぱすっごいなぁって……」 「はぁ?意味わかんね…」 促されるまま要の家に入ると、ブワッと濃厚なホワイトムスクの香りが鼻孔をくすぐる。 いい匂いすぎるって要…!!!!! 「あ?なんだその顔」 「要って……ほんっと俺の…いや、みんなの期待を裏切らないよね……」 「?どんな期待だよ…」 「美人ってこうだよね…っていう期待?」 「……やっぱお前意味わかんねぇ」 リビングに入ると、至る所にデザイン画と布、そして服を着せた状態のマネキンが置かれている。 さっすがデザイナー志望……壮観だ。 「散らかっててごめんな?最近ちょい煮詰まってて…」 「えっ!いや、全然!!…いきなり呼びつけて押しかけちゃったこっちが悪いんだし……俺こそごめんね?」 「……まぁ、それは全然いいけど?切羽詰まってたんだろ?」 「……うん、連絡できる人…要しかいなかったし」 「そっか……俺は、暁人に頼ってもらえて嬉しいよ」 要は俺の頭をグチャグチャに撫で回して、ニコッと綺麗に笑う。それが、死ぬほど嬉しくて…止まったはずの涙がまた溢れた。 要は…口は悪いし人に誤解されがちだけど、今まで俺が会った誰よりまっすぐで心優しい人だ。こんな人と友達になれるなんて……俺の人生も、案外捨てたもんじゃないって思えるくらい……素敵な人。 「もう泣くなって…、目腫れるぞ?」 「ん…」 「てかお前……、身体大丈夫か?その……さっき言ってた薬の影響とか…」 「大丈夫だよ…もう、完全に抜けてる……」 「……そっか、ならよかった……暁人、コーヒー飲むか?」 「うん…」 その日要は、朝方までずっと俺の話を聞いてくれた。 携帯には何度も爽から着信とメッセージが来ていた。どうやら、ストーカーが捕まった様だ。…だけど正直、今の俺にとってはストーカーなんてどうでもいい。 返事をするかどうかかなり迷ったけど……どこにいるのかと何度もしつこくメッセージが届いたので、友達の家に行くから心配しなくていいとだけ送り、それ以降は電源を切った。 もう、爽と連絡を取るつもりは……ない。 「お前……本当にもう爽に会わないつもりか?」 「………うん、会わない………爽だってもう俺に会いたくないだろうし…また会ったら……俺、決心が揺らいじゃいそうなんだもん……」 きっと、顔を見たら…また好きだって思ってしまう。 傷付いてもいいから、そばにいたくなってしまう。 でも、爽にとって俺と住むことは…やっぱりもうデメリットしかないから… だから、これでいいんだ。 ストーカーのせいとは言え、他に好きな人がいる爽に……俺の身体を慰めさせた。爽の優しさに付け込んで、俺って……本当に最低だ。 爽は優しいから……、きっと…俺から離れたいとは直接は言わない。 だからちゃんと…こっちから手を離してあげなきゃ。 爽を、俺から解放してあげなきゃ。 「……俺は、お前に幸せになって欲しいよ」 「…要は……優しいね…?」 「はぁ?そんなこと言うの…お前だけだわ」 「ふふっ…要のことちゃんと知れば、きっとみんなそう言うよ?」 「ふんっ……別にいーよ…お前さえ知ってれば」 照れながら言う要に、俺はクスクス笑う。 ほんと、かわいい人だな…要は。 「……あーあ……俺、要のこと好きになれば良かったなぁ!」 「…お、じゃあ付き合ってみるか?」 「……」 「……」 「………要冗談きっつ」 「ブハッ!!!だよなぁ~???」 要と付き合うなんて絶対ありえない。要とは一生、友達でいたいもん。 それに、俺はきっと……… これから先もずっと、爽一筋だ。

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