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トドメを刺してと君は言う【後編】 9

要の家で生活し始めて1週間。 あの後…爽の番号を着信拒否し、メッセージも全て未読のまま今も放置し続けている。見てしまったら……また気持ちが振り出しに戻ってしまうと思うと…怖くて開けなかった。 要はいつまででもここにいていいって言ってくれて、その言葉に甘えまくってずいぶんと長居してしまった。気を紛らわせたくて散らかり気味だった部屋の中を掃除して、要にご飯を作って過ごしていたら、むしろ超喜んでくれて…爽より俺んとこに嫁げば?なんて笑えない冗談を言われたりもした。 ちょうど大学は前期末テストも終わり、夏休みに入ったから正直都合が良かった。要がデザイン画を描いてる間、俺は洗濯したり買い出しに行ったり…たまに要の作った服を試着してあーだこーだ2人で話し合ったり…写真を撮ったり…とにかく退屈しなかった。 要といると、会話が絶えないし…とても穏やかな気持ちで過ごせる。 俺は…初めて出来た友達とのこんな気楽な生活も、悪くないのかも……なんて、思い始めていた。 「なぁ、暁人…俺、これから出掛けるけどいい?」 「ん?いいよ~!珍しいね?じゃあ今日は要の分のご飯作んないねー」 「うん……」 「……?どしたの要」 「お前さ……本当にずっとここにいんの?」 ソファで2人横に並んで話していたら、要は急に俺の顔を覗き込んできた。 「えっ……もしかして……俺がここにいるのって…迷惑?」 「いや、そうじゃねぇけど……」 「じゃあ…なんで?」 「お前…寝れてねぇだろ?」 「…………気付いてたの?」 「……気付くだろ」 図星だった。 この家に来てから、俺はほとんど眠れていない。 要の家がどうとかじゃない。客間のベッドはめちゃくちゃ綺麗だし、要の家はとても居心地がいい。 問題は……心の方だ。 ちゃんと気持ちの整理をつけて爽から離れたと思っていたけど、結局そう簡単じゃなかったみたい。 爽が…恋しい。 嫌われてたって、一緒に居たくないって言われたって……… 俺が爽に恋する気持ちは…1ミリも変化しなかった。 どうして、こんなに好きになってしまったんだろう。 心が……壊れてしまうほど。 「暁人」 「…?なに?」 「俺…最初はさ……暁人のこと…自分の作った服を着て欲しい相手…としか思ってなかった」 「……?うん、知ってるよ…?」 「いいから聞けって!………それがさ、一緒にいるうちに…すっげぇお前のこと、好きになっちゃったんだよ」 「…………え」 「……あ、勘違いすんなよ?友達としてな?」 「なんだ…!びっくりした…!」 一瞬、マジで告白されたかと思ったじゃん! 心臓に悪っ!!! 「だから………、お前のために俺が出来ることって何かなーって…この1週間すっげぇ考えた訳」 「……?うん…」 「暁人……俺、お前にはもう傷ついて欲しくない……でもな、それ以上に…絶対後悔して欲しくない」 「……要?何言って…」 「何があっても、俺だけは一生お前の味方でいるから……だからもしこの先の未来…傷付くことがあったら、いつでも俺のところに帰ってこいよ?」 「……え?」 要の真剣な瞳に、何故か嫌な予感がした。 「……じゃ、俺はもう出掛けるから……あとは…」 「…え?」 「2人で話し合って」 立ち上がる要につられて後ろを向くと…… 泣きそうな顔の爽が立っていた。 俺はあまりの衝撃に目を見開いたまま動けず、言葉も出ない。 要は俺に向かって盛大にウインクした後、そのまま玄関に向かい部屋を出て行ってしまった。残された俺と爽はお互い見つめ合ったままその場に固まる。 ほんの数秒の沈黙が、 何時間にも感じた。 「……あき」 「なん……で………?」 「要から……連絡貰ったんだ……」 「……」 爽は普段じゃありえない様なヨレヨレのワイシャツを着ていて…髪もボサボサだ。心なしか、少しやつれた様にも見える。 なんで、爽が泣きそうな顔すんの…? 俺に出て行って欲しかったんじゃ…ないの? 聞きたいことや言いたいことは無限にあるはずなのに、言葉が喉につっかえて出てこない。 「要とあきが友達なんて……俺、全く知らなかった……」 「………言う機会……、無かったから……」 探り探りの会話に、嫌気が差す。 もう、いい。 もう………ハッキリ言って欲しい。 「トドメ………刺しに来たの…?」 「………え?」 「トドメ…刺してよ……爽…………じゃなきゃ、俺……たぶんもうっ…前に進めないっ………」 お願い、爽…… 俺から手を振り払えないの…… だから… ハッキリ、別れを告げて…… 「わかった……………」 爽はゆっくり俺に向かって歩いてきて、ソファの前まで来ると急にしゃがみ込んだ。片膝を床について俺の手を取ると、澄んだ眼差しでこちらを見上げる。 「あき、」 「………え、な、なに……?」 「愛してる」 「……は?」 言われた言葉の意味がわからず、ポカンとしていると…爽は握っていた俺の手にそっと口付ける。 ドキドキと胸が熱くなって、ようやく…思考が追いついてくる。 え、なに…? なんで…? どういうこと……? 「なにそれ……!なんでそんな嘘言うの…?」 「は!?嘘じゃねぇよ!!!!」 「絶対嘘だよ!!!」 「いやなんでだよ!!?俺なんであきにそんな疑われてんの!!?」 「だ…だって爽っ…!恭ちゃんと電話してたじゃん!!!!」 「えっ……?電話……?」 俺はキッと爽を睨みつけて、何故俺が家を出て行ったのかを詳しく話した。 俺はあの日のこと、絶対忘れたりしないから!!! あんなの聞いた後で…、"愛してる"なんて……信じられる訳ない!!! 「は………?じゃあ……あきが出て行った原因って…あの恭介との電話なのか…!?」 「そうだよっ!!!!爽の嘘吐きっ!!!俺のこと大事なんて、思ってもなかったくせにっ!!!!!」 「ハァ!?お前っ…本当にちゃんと内容聞いてたのか!!?」 「聞いてたよ!!!爽の声だけ、だけど…」 「なら絶対誤解してる!!!」 今まで見たこともない様な焦った顔で俺に訴えかける爽に、困惑する。 一体…どういうこと…? 「あの電話は……」 爽は真剣な眼差しで、あの日の恭ちゃんとの会話の全てを語り出した。

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