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トドメを刺してと君は言う【後編】 10
『は!?触った!?暁人の身体を!!?それって…性的な意味でか!!?』
「不可抗力だったんだよ…俺が触らなきゃどうしようもない状況で……」
『だからって爽…!!お前何やってんだよ!!心を手に入れるまでは絶対手出さないって言ってたのお前じゃん!!!なのに…!』
「そうだよ……跳ね除けてでも拒否すればよかったのに、弱ってるあきに付け込んで…最低だよ俺は……」
『爽…』
「たぶん………もう、我慢の限界なんだよ…このままあきの近くにいるのは…」
『それって……このまま近くにいたら、気持ちが抑えられなくなりそう……ってことか?』
「ああ……」
『…爽…、お前本当に暁人のこと手放す気か…?この生活…やめんの…?』
「そうだな……あきとの生活は…もう終わりにしたほうがいい」
『なんだよそれっ…!暁人だって好きな奴に振られてるんだろ!?なら言えよ好きだって!!その相手から奪い取るくらいしてみせろ!!』
「そんなこと、出来ない……俺の一方的な気持ちを告げたところであきを困らせるだけだ…」
『なんで…!!?もう少しわがままになったっていいじゃん!!!お前の気持ちを聞いて…そのあとどうするか考えるのは暁人だろ!!?』
「……無理だ……」
『だからなんで!!?』
「自分より、あきが大切だからだよ」
『……』
「俺の気持ちより、あきの幸せが……一番重要なんだ」
『………そんなん、悲しすぎるって……』
「かもな……叶うなら…同居する前に戻って、親に強制された"許嫁"としてじゃなく……本気であきが好きだって伝えたい………そしたら、例え振られたとしてもこんなに気持ちが抑えられなくなるまで拗らせることもなかったのにな……」
「は………?えっ、それが……あの会話の……真実?」
「そうだって……まさかこんな全部言うことになるとは思ってなかった…お前ちょうど誤解する部分だけ聞いてたろ……タイミングわりぃ……」
「じゃあ…ほんとに…俺の、勘違いなの…?」
「ん……全部な」
「………爽、顔…真っ赤……」
「言うなよっ……」
爽は口元を押さえて俺を見る。
まさか、爽がそんなに俺のことを想ってくれてたなんて……想像もしてなかった。
じゃあ……
爽の好きな人って……最初から……俺だったってこと…?
なんで、気が付かなかったんだろう……
「あき…今から話すのが、俺がお前に思っていた事の全てだから…とりあえず…黙って聞いてくれるか?」
「………ハ……、イ…」
手をギュッと握られながら頷くと、爽の手がカタカタと震えていることに気付いた。
爽………、
もしかして…緊張してるの……?
「俺、ずっと……自分の気持ちをあきに押し付けることが怖かった……あきがまだ小さい頃からずっと…あきのことだけが好きで、好きで、好きで………ずっとあきだけを想って生きてきたから……親に許嫁だって聞かされた時、本当は飛び上がるほど嬉しかったんだ」
「……えっ…」
「だけど、同時に…悔しかった」
「……悔……しい…?」
「うん……本当は自分の手でお前を手に入れたかったから…………あきの心を手に入れていないのに、一緒に住むことになって…こんなの意味ないって…思ったんだ」
爽はゆっくり、優しい声で今までの想いを紡いでいく。
俺はどこか夢見心地で…、必死に泣くのを堪えていた。
「でも……お前との同居生活の中で……なんとか俺を好きになってもらえないかって…その糸口はないのかって…とにかく、チャンスが欲しくて……親に強制されたこの生活を……利用した」
「………」
「お前にとっては、"許嫁"も"同居"も不本意だってわかってたんだ……なのに……俺って…本当に自分勝手で最低だよな……?」
「……爽…」
「結局……あきと一緒にいればいるほど俺の方が前よりどんどん惹かれちゃってさ……いつか……無理矢理お前を自分のものにしたい欲望に負けるのが、怖くなっていった」
少し俯いた爽の瞳は揺れている。
握られた指先が、なんだかじんわり暖かい。
爽の熱い気持ちが、繋いだ手の平から俺の中にどんどん流れ込んでくるみたい…
「だけどお前に好きな人がいるってわかった時……俺、一度はお前への気持ちを抑え込もうとしたんだ…」
「えっ、そうなの…?」
「うん……さっきも話したけど、俺にとっては…自分の気持ちなんかよりあきの幸せの方がずっとずっと大事だったから……どれだけ俺があきのこと好きでも……お前の恋の邪魔をするのは、大人として違うって思った」
「………だから……あんな態度になったの…?」
「そう…なるべく近寄らない様に、触らない様にした……あきには、それが冷たくしてる様に見えたんだよな…?ごめんな…」
「…い、いや…」
「俺、お前が好きすぎて…感情のスイッチ……100か0かしか出来なかったんだ……近くにいたらまた、無意識に一線を越えようとしそうで……怖かった」
そういうことだったのか…と、心の中でストンと納得がいった。
爽は、俺の幸せを願って…身を引こうとしてくれてたんだ。
「爽っ…………、じゃあ、俺の身体…触ったこと……後悔、してない…?」
「ハァ!?する訳ねーだろ!!!むしろ…一生忘れられない思い出になっちゃったよ……」
「なにそれ……」
「その…有り体に言えば……死ぬほど、興奮したってこと……」
「………えっち…」
「……好きなんだから、しょうがねぇだろ」
照れながら真っ赤になる爽に、俺も顔が熱くなる。
「あき…………あのさ、」
「……ん?」
「お前に好きなやつがいることはちゃんとわかってるんだ俺……」
「えっ…?あ、それは…」
「いいから、聞いてくれ」
優しいけど強く男らしい口調に、思わず胸がきゅんと鳴る。
握られたままの手が少し痛い。爽もかなり緊張してるんだろう…力加減がバカになっちゃってる。こういうとこ、意外。いつもスマートな王子様の爽も…緊張したり、するんだね…?
「…俺にとっては今までもこれからもあきの存在が一番大切で…だからこそお前から離れようとしたし、自分の気持ちを伝えることもしてこなかった」
「……」
「正直俺は、このままあきに気持ちを伝える気無かったんだ……」
「え……」
「だけどな、今朝電話で要と話した時言われたんだよ……」
「要…?」
「うん……『暁人のことを本当に想うなら、爽の気持ちをちゃんと全部伝えろ…お前がどんなことを思ってたとしても…それを受け止められないほど、暁人は弱くない』って……」
「……!」
「それで、踏ん切りついた」
晴々とした爽の顔に、目頭がジワッと熱くなる。
…まさか要がそこまで言ってくれているなんて思いもしていなかった。どこまでいい奴なんだあの美人デザイナー…!!
「それにさ、今回物理的にあきと離れてみてよくわかったんだ……俺、自分が考えてた以上にあき無しじゃもうダメになってるって…」
「……」
「言っても言わなくてもどうせ俺は一生あきのこと諦められないし……だからさ、今ここで振ってくれて構わないから……俺からの最後のわがままとして……言わせて」
「……え、」
「…あきの片想いの相手に宣戦布告していい?」
「は?」
意味がわからず、ポカンとしていると…爽は手を握ったままグッと身体を俺に近づけて、ゆっくり口を開いた。
「俺は日下部 暁人がこの世で一番好きだ……あきが振り向いてくれる可能性があるなら、俺はこれから…どんなことだってする」
「爽…!」
「…だから、ソイツより…俺のこと見てくれないか?」
「へ!?あ、あの…だからそれは…」
「…あき!!」
「…はい!?」
「どこの誰か知らねーけど、お前を振る様な奴に…俺絶対負けないから!!」
真剣な顔で自分に宣戦布告する爽に、俺はとうとう絶えきれなくなって盛大に吹き出す。
それを見た爽は、えっ?えっ?と呟きながらかなり動揺していて、余計に笑いが止まらなくなった。
「あ、あき…?」
「あははははっ…もうっ…!!爽もすっごく勘違いしてるよ…?」
「えっ?」
「あのね……爽……」
「…?」
「俺も、トドメ………刺していい?」
「………は?」
「俺もね、ずっと爽には別に好きな人がいるって…思い込んでたの」
「………え」
爽の顔を両手で掴んで、ゆっくり唇を押し付ける。チュッ、とかわいいリップ音と共に顔を離すと目を見開いて驚く爽と視線が重なった。
「は………、あき…?」
「今、俺の一番好きな人に…ちゅーしたよ?」
「…………え?」
「爽……大好きっ」
勢いよく抱きつく俺の目に飛び込んできたのは、今世紀最大のキョトン顔の王子様だった。
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