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トドメを刺してと君は言う【後日談編】2
「樋口様、お連れ様がいらっしゃいました」
「あ、ありがとうござ」
「キャーーーーーーーー!!!!!暁人くーーーーんっ!!!!!」
爆音で聞こえて来た実の母親の声に、咄嗟に目の前の恋人を抱きしめて守る。あきはかなり驚いた様で、カタコチに固まって全く動かない。俺の目線からじゃつむじしか見えないけど……多分、赤くなってるんだろうな。
「ちょっと爽!!暁人くんのお顔が見えないわっ!!!どいてちょうだいっ!!!」
「ならいきなり抱きつこうとすんなよ!!!!人の恋人にっ!!!!」
俺の爆弾発言に、母親は勿論、後から入ってきた父親も目を丸くする。
ここは、都内某所の老舗ホテルに入っている高級中華料理店。
今日は、俺の両親に交際の報告をしに来た。
「まぁ!!!!じゃあ正式に交際することになったのね!?」
「そういうこと」
俺と母の会話を隣で静かに聞いていたあきは、エビチリを頬張りながら真っ赤になっている。かわいすぎか。あきって、身体ちっちゃいのにかなり食うんだよな……そこもマジでかわいい。っていうかもう…何しててもかわいい。
正直、交際のこと親に言っておく必要あるか?とも思ったけど…あきがちゃんと報告した方が良いって言ったから一応報告の場を設けた。あのマンション買ってくれたのうちの親だし、あき的にはその辺を気にしてるみたいだ。そんなのうちの親が勝手にやったことなんだからほっときゃいいのに。
俺はむしろ、あきの親に早く報告しに行きたい。もちろん電話ではすでに報告したけど、中々予定が合わなくて結構もどかしい。大事な息子さんと交際するっていうのに挨拶も無しなんてあり得ねーだろ。あきの親はそういうのあんまり気にするタイプじゃないけど、けじめの問題だ。早く頭下げにいかなきゃ、俺が納得出来ない。
「そうかそうか…なら計画通りだ!強引に許嫁の話進めて正解だったなママ!」
「そうね!パパ!」
「……え?なんだよソレ…どういうこと?」
意味がわからず、俺は食事の手を止めて両親を見る。
そりゃもちろん強引だったけど……計画って一体…?
「実はね…、日下部家の第一子が男の子だってわかった段階で、許嫁の話は一度白紙になってたのよ」
「「え?」」
「だって、男同士だし…さすがに2人を許嫁にするには無理があるでしょ?」
「「ええっ!!?」」
俺とあきの声が見事にシンクロして、個室に響き渡る。
この人たち…男同士で許嫁になることがおかしいってちゃんとわかってて……それでも強引にこの話を進めたのか!?
なんで!?
「じゃあなんで強引に許嫁にしたんだよ!…い、いや…結果的にそれでよかったけど…でも」
「だって、爽が暁人くんに本気で恋してるって私たちみーんな気付いてたんだもの」
「は!?」
弾んだ声で話す母親に驚きすぎて、もう食事どころじゃない。
父さんは父さんで、母さんの隣でニコニコしながら頷いている。
「バレてたのかよ…!!」
「バレバレよー!!爽が暁人くんのこと好きだなんて目見ればすぐわかるわよ!!!暁人くんのご両親も私たちも昔から知ってたわ!!気付いてなかったのは暁人くん本人だけ!!爽が高校卒業してすぐ家を出たのだって、暁人くんのためでしょ?」
「……そ、そこまでわかってたのか…?」
「親だもの」
全部……バレていたのか。
しかもうちの親だけじゃなく…あきの親にまで……。
「だから両家で話し合って、暁人くんが18になったら2人に許嫁だって伝えようってことになったの!」
「なんでそうなるんだよ…」
「だって、爽ってば中学生の時からずーーーーっと暁人くんのことしか見てないのよ?もう、手助けしたくなっちゃうじゃない?ね、パパ!」
「そうそう!我が息子ながら意気地がないったらなかったよな!幸い日下部さんご夫婦も賛成してくれたから出来たことだけどなぁ!」
「……俺……全然、知らなかったです……」
「そりゃー暁人くんは当事者だもの!言える訳ないわ!」
母さんはニコニコしながらあきの頭を優しく撫でる。
あきは真っ白なほっぺをほんのり赤く染めていて、実に愛らしい。抱きしめたい。
「で、半年一緒に住ませてみて…2人が本当の恋に落ちなかったら許嫁は解消しようって思ってた訳…まぁ、半年もいらなかったみたいだけど……?」
やっぱり、めちゃくちゃぶっ飛んでる。
「はー!!!何にせよおめでたいわねっ!!!暁人くんが本当に樋口の嫁になってくれるなんて…夢みたい…」
「あ、あの…嫁ってわけじゃ……」
「あ!ねぇ、暁人くん!気になってたんだけど…そのお洋服って、もしかしてかなちゃんが作ったものかしら?とってもかわいいわ!」
「え?あ、そうです!要が作ってくれた服です…!」
母さんは、あきを上から下まで舐めるように眺めてウットリしている。
要とあきが友達だとわかった時、後から母さんにも電話で報告したけど……その時の喜びようは今思い出してもすごかった。元々うちの母親と要の母親は姉妹みたいに仲が良くて…母さんは要のこともめちゃくちゃ可愛がってたからな。発作でも起きたかってくらいの狂喜乱舞っぷりだった。
俺は服のことはよくわからないけど、あきは元々要の母親の作る服が好きだったみたいで、今は要の服作りを手伝っているらしい。まぁ、考えてみたらあきって小さい頃からオシャレだったしな。なんか、要とあきって…出会うべくして出会った感がすごくて…正直、ちょっと妬ける。
「かなちゃんの作るお洋服、相変わらずかわいいわね…!可憐とはまた違うテイストで素敵だわ!さすがオーダーメイド…サイズもカラーも暁人くんにピッタリね!最高に似合ってる!」
「そ、そうですか…?恐縮です…!」
「はぁ~かわいいっ!!!こんなかわいい子を息子が独り占めしてるんだと思ったら、世間に申し訳なくなってきたわ!!!」
「確かに暁人くんは爽には勿体ないかもしれんな…」
「おい、実の息子に対して言いたい放題すぎだろ!」
「あ、あの…」
あきは顔の横に手をピョコンとあげて、俺の両親を見る。その仕草のかわいらしさにきゅんきゅんしていると、父さんと母さんも俺と同じ気持ちらしく優しい瞳で俺の恋人を見つめていた。
もう、あきは樋口家全員メロメロにする気か。
「そ、そんなこと…ないですよ…?俺、爽と付き合えて…凄く幸せですっ……大事に、してもらってますっ…」
あきの言葉の破壊力に、俺は思わずテーブルに突っ伏す。
それと同時に、両親がキャーキャーと騒ぐ声がする。
ダメだ……俺、あきがかわいくて……たぶん、そろそろ死ぬ。
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