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トドメを刺してと君は言う【後日談編】3

「爽…?…あ、もしかして照れてるの?」 「……お前さぁ……俺のこと殺そうとしてる?」 「ええっ?なにそれ!」 「……もう、いいや…今の100倍大事にしよ…」 「……?もう、十分だよ?これ以上どうやって大事にするの?」 「……じゃあ、今の100倍幸せにしていい?」 「あははっだからもう幸せだってば!爽意味わかんない!」 「……俺はお前のかわいさが意味わかんねーよ」 ふと視線を感じて前を見ると、俺たちの甘ったるい会話を盗み聞きしていた両親がニヤけた顔でこちらを見ていた。 なんだその顔。 「そうだママ!2人の新婚旅行はどうする?」 「まぁパパ!そうねっ!!若い2人にハネムーンは必須よね!暁人くんももう夏休みに入ってるみたいだし、すぐに手配しましょう!」 「「えっ!!?」」 突然盛り上がる両親に、俺もあきも大いに焦る。 っていうか、この人達の中の俺とあきって…許嫁通り越してマジで結婚したことになってんだな…… 「ちょっと待てってば!!!まだ付き合ったばっかだって言ってんだろ!?」 「いいじゃなーい!私たち的にはもう暁人くんは樋口の嫁なのよ!?新婚旅行くらい行かせてあげなきゃかわいそうでしょ!?」 「ハァ!?」 「モルディブ?タヒチ?ドバイ?どこにする??ねぇ暁人くんはどこがいい…?」 「おい!勝手に話すすめ…」 「…………北海…道…」 「え?」 隣で考え込んでいたあきの呟きに驚いて顔を覗き込むと、大きな瞳を輝かせている。 え、なに、あき……乗り気なの? 「俺爽と旅行出来るなら……北海道がいいです!」 「………マジ?」 「えっ…?ダメなの?」 「いや………むしろ、めっちゃ嬉しい…っていうか……いいんですか……って感じ……」 「………もしもし、私よ…ええ、今すぐに北海道旅行を最高のプランで手配してちょうだい」 突然電話をかけ始めた母さんのあまりにもスピーディーな行動に驚く。思い立ったら即行動もここまでくるといっそ病気だろ。 あきもまさか母さんがここまでするとは思って無かったようで、目をまん丸にして呆然としている。 「オイ母さんっ…!旅行の手配なら俺が自分でやるから何もしなくていいって!!俺有給取れるの来月だと思うし…!」 「あら…残念…そうなの?でも行くのは決定よね?」 「あー…まぁ、あきが行きたいならそりゃ…」 「やったわ!今度こそハネムーンベイビーが期待できそうねっ!パパ!」 「そーだな!ママ!」 「ハァ!!?」 「爽!ママは女の子を期待してるからねっ!!」 「パパは男の子を希望する!」 「だから、出来ねぇって言ってんだろ!!!」 俺のツッコミに満面の笑みでピースサインをする両親に、本気で目眩がした。 「相変わらずぶっ飛んでたな…」 「あははっ…もう俺、爽のご両親のぶっ飛びに慣れてきたよ?うちの親も…ぶっ飛び具合では同じだしね?」 「俺は27年経っても慣れねぇよ……」 「ふふっ…ちょっとは慣れよーよ!」 家に帰ってきて、ダイニングテーブルで2人でゆっくりティータイム。今日は俺の親のせいで、心がかなり疲弊した。 まぁ、あきの顔見てればどんなストレスも吹っ飛ぶんだけど。 「……ん?なぁに、爽…めっちゃ見るじゃん」 「いいじゃん…見させてくれよ…お前でHP回復中…」 「えー?そんな見られたら恥ずかしいっ」 「うーわ…そんなかわいい顔すんなって…もっと恥ずかしいことさせたくなるだろ」 「え?……もっと恥ずかしいことって……なに?」 「…あー……服、脱いですること…とか?」 「……へ」 やっと意味を理解したあきは、小さな両手で自分の顔を覆う。あきが照れた時に時々やるこの仕草……たまんねぇんだよな。かわいすぎ。なんなら、これが見たくて照れさせてる。 「あき?冗談だって…!おーい…顔見せて?」 「………やだもん」 「ふはっ…!お前…ほんとかわいいね」 「んーっ…そんな恥ずかしくなることばっか言わないでってば…」 「無理……、こっち向いて」 「………」 顔を覆ったまま無視を決め込むあきに、悪戯心が疼いて不意打ちで耳にキスをする。案の定大袈裟にビクリと跳ねた身体がかわいくて、笑ってしまった。 「やぁっ…!爽、やだってばっ!!もー!!意地悪ーっ!!」 「あははっ!やっとこっち見た!!」 「もーっ俺で遊ばないでっ!」 「いいじゃん……俺、お前の彼氏だろ?」 あきの中で、"彼氏"って言葉はどうやらまだちょっと特別みたいで、いまだにこれを言うと少し照れて嬉しそうに笑う。美少年のはにかんだ笑顔……マジたまんねぇ。 「あ、あのさ……爽?」 「ん?」 「ちょっと、聞きたいことが…あるんだけど……いい?」 「…もちろん、なんでも聞いて?」 真剣な顔のあきに、少々身構える。 聞きたいこと…なんて、改まって一体なんだろう? 「あのさ……さっきお義母さんが言ってた…その、爽が俺のために家を出たっていうのは…どういう意味…?」 「あー……、」 あきは綺麗な瞳で俺を見上げる。 伝える必要ないと思ってたけど……あんな風に言われたらあきも気になって当然だ。 まぁ、もう…話してもいいか。 「なんていうか…俺が樋口の家にいたら、両親どちらかの家業を継ぐことになるかもしれないと思って…ほら、俺あきと違ってひとりっ子だろ?」 「……うん」 「だから、俺の相手は後継者を産める人……つまり、女じゃなきゃ反対されると思ってたんだよ……でも俺は、あき以外愛せないってその時にはもう確信してたし…好きでもない女と所帯持つのもごめんだったから……色々考えて、先手を打って…家を出た訳」 「えっ…待って………嘘っ…爽、……俺のために、家を捨てようとしたの…?18で…?」 「…そう、なるな」 「将来…俺と付き合えるかもわかんなかったのに…?」 「うん、可能性はゼロじゃないって……思いたかったから」 「……そんな」 「………まぁ、大学は元々学費免除が決まってたし…バイトしながら大学通えば金銭的にもなんとかなると思ったからさ…別に樋口の家にはそんな未練なかったよ」 結局、親は世襲に全然こだわって無かったから…俺が家を出たこと自体、あんまり意味なかったけど。しかも親も俺とあきとの交際を望んでたんだから…ほんとに、いらない苦労だったのかもしれない。まぁ、いい経験になったから後悔はしてないんだけど。家を出ただけで、別に親との関係が悪かったわけでもないし…それに、若い頃の苦労は買ってでもしろって言うしな? なんて考えていたら、俺を見ていたあきの瞳からボロっと大粒の涙が溢れた。 「!!!?あきっ!?」 「ううっ……だから、爽っ…ご両親の会社に入社しなかったんだねっ…」 「あ、まぁ…そうだけど…」 「そっ…そこまで俺のこと思ってくれてた、なんてっ…全然知らなくてっ…」 「うわっそんな泣くなよ…!あーもうっあきはほんと泣き虫だなぁ…」 「んーっ…爽が泣かせるんでしょぉ…っ」 抱きついて、うーっ!と唸りながらポロポロ泣くあきが、天使みたいにかわいくて…ギュッと強く抱きしめ返す。顔を覗き込むと、鼻の先がピンク色になってて、胸がキュンとした。 なんでこんなにかわいいんだよ俺の恋人は…!!!そりゃストーカーも狙うよな!!!ムカつくけど納得だよ!!!! あきはその後もなかなか泣き止まなくて、俺は必死にティッシュで涙を拭いながら頭を撫で続けた。 ようやく泣き止んだ頃には、テーブルの上でティッシュが山を作っていてかなりシュールだった。

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