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トドメを刺してと君は言う【後日談編】4
「あのさ…」
「なに?」
「…じゃあ、爽って…彼女いたことないの?」
「……は?」
「だって、俺が初恋なんでしょ?なら、爽って…彼女いない歴=年齢だったりする?」
予想外の質問に、俺は咄嗟に目線を逸らす。こんなこと聞かれるなんて、思っていなかった。
「そ、それは……!いたこと……ある、けど……」
「ええーーっ!?」
「ビックリしたっ…そんな驚くことか?俺27だぞ?」
「驚く…っていうか…」
「…?なに?」
「………なんか、ちょっとガッカリ……言ってるほど俺に一途だった訳じゃないんだ…」
あきは俺から離れると口を尖らせてプイッとそっぽを向いてしまった。
なんだよ、怒った仕草も可愛いのかよコイツ。さっきまであんな大泣きしてたくせに。
「オイあき、口尖らせんなって…キスするぞ?」
「…すれば~?」
ジトっとした目で俺を見るあきは、さながら小悪魔のよう。
あきにとっては俺が初めての彼氏なんだから、元カノの存在は嫌で当然か。俺もあきに元カレがいたらたぶんめちゃくちゃ嫉妬するしな。
って…当然のようにあきの相手男で想像しちゃったな。なんていうか、あきってビジュアル美少女すぎて女の子と付き合ってるとこ全然想像出来ねぇんだよな。本人は気にしてそうだから、言わないけど。
「あー……彼女いたって言っても…本気だったわけじゃねーよ…?」
「えっ?なにそれ…?遊びで付き合ってたの!?」
「いや、そういう訳じゃねーけど…だって、俺たち9つ差だぞ?お前が俺みたいなおじさんに振り向いてくれるなんて思ってなかったし……」
「おじさんって…」
「だから、言い寄られて…何回か付き合ったりもしたけど…やっぱお前しか好きになれなくて……結局毎回振られてた」
大抵、めちゃくちゃビンタされて。
「ふふっ…爽、振られてるんだ…」
「おい笑うなあきっ!」
「あははっ!だって…意外で…!爽って…こんな見た目も中身も完璧な王子様なのに」
「…お前、なんか勘違いしてるけど……俺あき以外にはそんな優しくねーからな?」
「え…そうなの…?」
「ついでに言うと、毎回振られる時同じこと言われてた」
「えっなになに?」
「他に好きな人がいるのに私のこと身代わりにすんなーってさ…女ってマジ鋭いよな」
「へぇ…女の人の勘って…本物なんだ…」
あきは感心しながら、紅茶を飲む。
俺がいる限り、あきは女と付き合う機会なんて一生ないんだから、気にする必要ないことだと思うけどな。絶対、別れねぇし。
「だから、俺の初恋はお前で……好きになった最初で最後の相手だよ」
「……」
「それでも、一途じゃないと思うか?」
「……ううん、めちゃくちゃ重たい愛…感じました」
「ははっ…!言えてる」
俺たちはお互いの顔を見合って声を出して笑う。伝わったなら、良かった。
ひとしきり笑った後…あきは、あ!と呟いて玄関に駆けていく。何事だ?と思って待っていると、大きな箱を持って帰ってきた。
見たところ、宅配の荷物のようだ。
「え、何これ?」
「あれ?聞いてないの?恭ちゃんからのプレゼントだよ」
「え?恭介?」
「うんっ!ちゃんと本人に電話で確認したから、間違いない!」
あきはそう言って、ダイニングテーブルの上に箱を置く。
あのチョコレート事件以降、貰ったものやうちに届く荷物にも警戒するように口を酸っぱくして言い聞かせてきたから、あきはその約束を守ってちゃんと送り主の確認もしていたようだ。
ちゃんと俺の言いつけを守っているあきを褒めたくて、俺は無言で頭を撫でる。サラサラで柔らかい黒髪が手に絡んで心地いい。
「中身なに?」
「さぁ…中身は聞いてない」
「……なんか怪しいな…」
「えっとね…電話した時に、『遅くなったけどお弁当のお礼と、散々2人の仲を邪魔したお詫び』って言ってた!」
「へぇ……食べ物…にしてはデカイし…なんだろ?」
「軽いし…タオルとか…?あ、でも恭ちゃん…なんかよくわかんないこと言ってたの」
「え?」
「なんか…『暁人へのプレゼントだけど、喜ぶのは爽』って……意味わからないでしょ?」
本当に意味不明だ。恭介は普段から突拍子もないことをしがちだけど、今回は全然予想ができない。
俺が首を傾げている間に、あきはどんどん箱を開けていき一気に蓋を開いた。
「……ん…?えっと……布?」
「………ウワッ!!!!!?」
中身を持ち上げたあきに、俺は慌てて手を伸ばし無垢な美少年の視界を塞ぐ。
「エッ!!?そ、爽!?なに!?」
「アーーーーーっ…クッソありえねぇっ…!!!!」
「へ!?なに!?なんなの!?」
「お前は知らなくていいものだった」
箱の中に入っていたのは、黒いセクシーなランジェリーとレザーのボンテージにガーターベルト…その他諸々…所謂、エロ下着一式だ。恭介の趣味全開。しかも、めちゃくちゃいい生地。絶対高いだろこれ。
俺は片手であきの目を押さえながら、ゆっくり箱の蓋を閉じる。
あの変態……!
俺が喜ぶ……ってそう言う意味か!
そりゃ、俺も男なんで…これを着たあきが見たくないと言ったら嘘になるけど…でも俺たちは付き合ったばかりだし、セックスだってまだしていない。するタイミングも、今のところ未定だ。
俺としては、すぐ手を出したいのは山々だし…薬を抜くためとは言えあそこまであきに触りまくっといて今更かもしれないけど…でも、あきにとっては俺とのセックスが初体験な訳だし、キチンと準備して優しく抱いてやりたいから……ゆっくり一歩ずつ進んでいければいいかなと思ってる。
だから、恭介のこのプレゼントは気が早すぎ。つーか俺の趣味じゃねーし!!
「………爽?ねぇ、どうしたの…?」
「んー?いやぁ…アイツのプレゼントは置いといて………これからが楽しみだなって思ってさ」
「……?」
「お前といると…毎日ドキドキしそう」
「爽も…俺にドキドキするの?」
「してるよ?今も」
「…えへへっなんだぁ…一緒だね?」
嬉しそうなあきがかわいくて、本当に優しく抱いてやれるのか…ちょっと不安になってくる。
俺、理性ぶっ飛んだりしねーかな?
例のチョコレート事件の時だって、理性と欲望の狭間で俺の中の天使と悪魔が行ったり来たりした。結局あの時は、なんとか自分を制御できたけど……両想いになってしまった今、本当に俺の理性が仕事するのかどうかは正直五分五分。俺のあきへの片想い年数を考えてほしい。13年だ。理性が飛ぶには十分すぎる期間、俺はあきだけを想ってきた。
しばらく物思いに耽っていたら、あきは目元を隠されたままクスクス笑いはじめた。
「ふふっ…」
「なんだ?どうしたあき…?なんで笑うんだよ」
「えー?だって……、初めてこの家に来た日…エレベーターの中でこうされたなって…思い出しちゃって」
言われて思い出した。
確かに俺、引っ越してきた日…これしたな。
「思い出した…!あきが高いとこダメって言ったから目隠ししたんだよな?」
「うんっ……考えてみたら、俺あの時も爽にドキドキしてた」
「え………マジ?」
「うん……でも、今は……もっとドキドキするよ…?」
「……え、なんで?」
あきは俺が押さえていた手に自分の手を重ねて、頬を赤く染める。
「………期待、しちゃうから」
「期待?」
「ん……、ちゅー、して貰えないかなって……」
あまりにもかわいらしいおねだりに、表情筋が思いっきり緩む。やばい、俺今めちゃくちゃだらしない顔してる。
「あき…キス、してほしいの?」
「………して、ほしい……俺…爽と…ちゅーしたい…」
手をそっと避けて、隠されていたあきの瞳とようやく視線が合った。
ああ、俺はたぶんこれからも何度だって…あきに心臓を鷲掴みにされるんだろうな。
立ち上がりあきの身体を引き寄せると、顎を持ち上げて上から見下ろす。緊張で若干強張ったあきの顔には、『ドキドキしてます!』って書いてあるみたいで…笑ってしまった。気持ちが顔に出過ぎ!
「あはっ……お前、俺とキスすんのにまだ緊張すんの?」
「するよぉ…ずっとするっ……だって、爽かっこいいんだもんっ」
「あはははっなんだよソレっ!」
「んーっ!もうっ、もっと恥ずかしくなるから早くしてっ!」
「……バカ急かすなって…余計燃えるだろ」
「……爽って…ほんとキザだ」
あきが全部言い終わる前に口を塞ぐと、俺の視界にはトロンとバターみたいに溶けたあきの瞳だけが映った。
…To be continued.
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