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この先プラトニックにつき【相談編】5

「あれっ!?爽?」 店頭で本を見ていたのは許嫁兼、彼氏の樋口 爽。俺の、世界一大好きな人だ。 "名は体を表す"を地で行っている爽やかすぎる笑顔に、ハートが一撃でノックアウトされる。 いつ見てもかっこいいな俺の許嫁様は!!! 今日はお仕事がお休みの日だから……もしかして偵察かな?心配しなくっても俺ちゃんと働いてるのに! 「どーしたの!?今日用事あるって言ってなかった?」 「うんそうなんだけど、用事終わったから…あきに会いたくて来ちゃった」 「へぇ!?ま、毎日家で会ってるじゃん!!」 「……ダメだった?」 「……う、嬉しい……です」 「…フフッ………!素直でよろしい」 爽はゆっくり俺の前まで歩いてきて、優しく頭を撫でる。爽って、こうやって毎日ナチュラルに俺のこと甘やかすんだよね。 目を細めて俺をジッと見下ろす爽の瞳からは、『愛しい』って感情が透けて見える。 やっぱり……爽は俺のこと本当に好きでいてくれてるんだ。恋愛初心者の俺から見たって、爽は相当俺を大切に大切にしてくれているとわかる。 ……それなら尚更、なんで手を出してくれないのか……やっぱ全然わかんない。 「あれー?なんだ、お客さん樋口だったんだねぇ」 「お!清水、お邪魔してます」 「ふふっ…はい、いらっしゃいませ!」 カフェスペースから出てきた楓さんは爽の顔を見てニコニコ笑っている。 「あきちゃんの様子でも見に来たの?」 「そう…悪い虫がついたら困るしな」 「ふふっ……!こーんな怖い彼氏がいたんじゃ誰もあきちゃんに接客頼めないよ」 「別に接客はいいけどっ…変な奴に言い寄られたりしたら困るだろ」 「あらら…重症だね?」 「もー!!爽っ!!そんなに俺のこと信用してないの!?」 「お前のことは信用してるっつの!!俺は世の中を信用してねーんだよ!!」 鋭い目つきであたりを見渡す爽に呆れてしまう。ちょうどお店にお客さんがいないタイミングでよかった。俺たちのやりとりを見て、楓さんはクスクス笑っている。 「樋口…学生時代から好きな人いるって言ってたけど…ここまでメロメロなんて知らなかったなぁ…」 「清水やめろ…あきの前で昔の話はすんなよ」 「しかも、まさかこーんな美少年が相手なんて思ってなかったし」 楓さんは俺を見て、フワッと微笑む。優しい笑顔にポーッとしていると、爽に両眼を塞がれた。 「へ!!?なに!?爽…またこれ!?」 「清水……その顔やめろ、俺の恋人誘惑すんな」 「えー?してないって!」 「お前にその気がなくてもその笑顔でみんなやられるんだって」 「……樋口はやられてないじゃん」 「そりゃ、俺はあきにしか興味ないんで」 真っ暗な視界の中で、2人の会話に聞き耳を立てる。 …確かに楓さんの笑顔って……見てるだけで幸せになるからなぁ。"誘惑"は大袈裟だけど、みんなが惹かれるのはめちゃくちゃわかる。俺も、楓さんの笑顔大好きだもん。 「清水の店だからあきのバイト許したんだからな!他の場所なら即却下だった!お前のこと信用してっから…マジで頼むぞ?」 「ハイハイ…信用してもらえて嬉しいです」 「…あき、コイツこんなふわふわ装ってるけど結構腹黒だからな?」 「ちょっとやめてよ樋口!俺、あきちゃんには優しいお兄さんって思われてるんだから!」 「ええ?楓さん…めちゃくちゃ優しいよ?俺、楓さんのこと大好き!」 「あらーかわいいっ……樋口には勿体ないっ…!!」 「お前もそれ言うのかよ!」 やっと覆われていた手が避けられて、頭上で喋る2人を見上げる。爽のご両親に言われたことと全く同じことを言われて、爽は顰めっ面で楓さんを見ていた。 "勿体ない"なんて…ほんとは俺のセリフなのにな…… 「今お客さんいないし、樋口…なんか飲んでく?」 「お?いいのか?」 「うん、あきちゃん樋口になんか作ってあげて?」 「えっ!?あきが作ってくれんの!?」 「えっと、あの…でも…簡単なドリンクしか作れないし…見習いなんで…期待しないでね?」 口元に手を添えて上目遣いで爽を見上げると、キラキラと目を輝かせていて…ちょっと笑えた。 ……そんな嬉しい?毎日爽のご飯作ってるの俺なのに…ドリンクでそんなテンション上がる……?バイト先ってなるとまた違うのかな? 「うーわ………あきちゃんにかかれば王子様も型なしですね」 「…清水うるさい」 「ふふっはいはいすみませんっ…あ、ほらあきちゃんカフェスペースにご案内して?」 「はいっ!」 爽を引き連れて店の奥に移動する。 カフェスペースには、テーブル席とカウンター席が用意されていて、爽は迷うことなくカウンターに座った。どうやら俺がドリンクを作るところをガン見する気らしい。 緊張するっての!!! 「えっと……じゃあ、ご注文…何になさいますか?」 「んー……じゃ、紅茶で」 「ええーーーっ!!?紅茶は爽の方が絶対淹れるの上手じゃんっ!!!なんで紅茶なの!?」 「なんだよ、いいだろ?」 「プレッシャーだってば!!!!」 「別に下手でもいいんだって!!!お前が仕事として俺に淹れてくれたってことに意味があんだから!!!」 「もぉ~………しょうがないなぁ……」 譲ってくれなさそうな爽に、俺は観念してため息をつく。紅茶の淹れ方は爽からも楓さんからもみっちり指導されたけど…それでもこんな見られて淹れるのは緊張する。コーヒーの方が気楽だ。 「…種類は?」 「……えっー、と……じゃ、アッサム」 「アッサムなら……ミルクティーにする?」 「うん」 爽はニコニコしながら頬杖をついて俺を見る。もー……こんなに見られたら穴あきそう。 「なぁ、あき…今日バイト終わるのって夕方?」 「え?あー…うん、17時に終わる予定だよ?」 「じゃあ…その時また迎えに来るから一緒に帰ろ」 「え……でも…俺帰りスーパー寄るよ?」 「なら、尚更迎えに来させてくれよ」 「え?」 「荷物持ち、させて?」 ……こういう時爽は、"してやるよ"とか絶対言わないんだよね。それが100%俺のためでも必ず、"させて?"って聞くの。 そうやって自然に、俺が負い目に感じない言い回しを選ぶ。 ちょっと……王子様すぎるよね? 顔面の偏差値と、中身の偏差値が比例しすぎでしょ。人としても、男としても、最高にかっこいい。こんな人が俺のこと大好きでいてくれるなんて……奇跡でしかない。

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