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この先プラトニックにつき【相談編】6

爽の言葉に胸がドキドキして、思わず手元が狂いかける。危ない。考え事してても、これは仕事なんだから集中しなきゃ。 「って……俺……さすがにちょっとウザイか?」 「……そんなこと…ない…」 「…ほんとに?」 「………あの、」 「ん?」 「い、一緒に帰れるの……嬉しいから……迎えに来て…ほしい」 「………」 恥ずかしくて、手元を見ながらそう告げると何故か爽からの返事はない。 ちょうどミルクティーを淹れ終わり、カウンター越しに爽の前に置き恐る恐る顔を見る。すると、いつも余裕綽々の爽の頬はほんのり色付いていて…熱い眼差しで俺を見ていた。 「……爽?出来たよ…?」 「あ……、ありがと……いただきます」 実際お客さんにドリンクを出すのは初めてで、ちょっとドキドキする。 「……!なんだよ、めっちゃうまいじゃん」 「ほんと?」 「うんっ…あきは何でもすぐ上手に出来るようになって…偉いな」 「…もうっ!子供扱いしてるでしょ?」 「ふふっ……してないって」 爽は俺を見ながらミルクティーを飲む。 よかった。これは、本当に美味しいと思ってる時の顔だ。紅茶が大好きな爽に美味しいって言ってもらえたら…自信出る。子供扱いは、解せないけど。 「……むしろ、あきのこともっと子供だって思えた方が楽なのかも」 「……え?」 「…お前色っぽくて、すぐキスしたくなるから…困ってる…」 「………な、なに言って…」 「……あき」 爽は俺の唇を指で撫でながら立ち上がり、耳元に顔を寄せる。 ドクンドクンと、忙しなく心臓が鳴る。 耳元で呟かれた言葉に赤面すると、爽はニコッと笑って、ご馳走さま…と呟きカフェスペースから出て行った。 爽の飲んでいたカップを見ると、見事に空になっている。いや、飲むのはっや。 もう付き合ってるし、一緒に住んでるし、キスだって毎日してるのに、こんな簡単に爽にドキドキさせられて……俺、そのうち心不全起こしそう。 俺は赤く染まった耳を手でギュッと押さえて、その場にしゃがみ込む。 "家帰ったら……、あきが嫌って言うまでキスするから…覚悟しといて" もーーーっ!!!!!あのイケメンほんと手に負えないってば!!!!! 「あきちゃーん、樋口帰ったけどなんか……え?あれ?………あらら…真っ赤だ」 「………楓さんっ……俺……爽に手のひらの上で転がされてると思うっ…」 「ふふっ……そうかなぁ?」 「え?」 「俺は、逆だと思うなぁ……樋口のことあんな風にできるの、この世であきちゃんだけだよ?樋口って基本人に興味ないもん」 「えっと……そう、なのかな…?」 俺の言葉に、楓さんはうんうんと首を縦に振る。 「樋口は幸せだね…あきちゃんみたいな子に好きになってもらえて」 「そんなこと、ないよ…?俺の方が全然…爽から幸せもらってるから…」 「ふふっ……ほんと、あきちゃんと樋口ってお似合い」 「え……ほんとに?」 「うん…樋口…俺から見てもめちゃくちゃあきちゃんにベタ惚れみたいだからさ、あきちゃんも大事にしてあげてね」 「……!うんっ!」 数時間後、やっとバイトを終えて外に出ると蒸し暑さにクラッとする。やばい。ずっとクーラーの下にいたからいきなりこの暑さは辛すぎる。 俺はグッと伸びをして、空を見上げた。夕方なのに、まだまだ日は高い。雲ひとつない綺麗な水色の空から、夏を感じる。 今日も結構混んだなぁ。 働くのって楽しいけど、疲労感はなかなかエグい。 「あき」 後ろから優しい声で呼びかけられて振り向くと、眩しいくらいの美青年に微笑みかけられる。 グッ……!毎日見てるけど、ほんと慣れない。このかっこよさに慣れる気がしない。 俺の彼氏世界一いい男っ!!! ふと爽の手元を見ると、両手にカップが握られている。 「爽…なにそれ…?」 「あ、これ?アイスだよ」 「えっ!!?わざわざ買ってきてくれたの!?」 「うん…あきお疲れ様!溶けちゃうから早く食べな」 「ヤバイ~~~ッ!!!!!ありがとー!!!!!爽大好きーっ!!!!」 「あははっ!アイスでお前から大好き貰えるなら、何個でも買っちゃうわ!」 爽からカップを受け取ると、近くにあるめちゃくちゃ人気店のアイスだと気付く。 これ、買うのにかなり並ぶのに…… 「………んー…美味しすぎるっ!!!!幸せーっ!!!」 「ふふっ…あきアイス大好きだもんなぁ…」 「爽……俺のことこんな甘やかして…!これ以上好きにさせてどうするつもりなのっ!」 「……もっと俺にハマらせて、抜け出せなくするつもり…かな?」 「…とっくに抜け出せなくなってるってば…」 アイス用のスプーンを口に咥えてチラッと爽を見上げると、額の髪をかき分けられキスを落とされた。爽もアイスを食べてるから、唇がヒンヤリと冷たくて…不思議な感触。 「もーっ…俺、汗かいてるのにっ…」 「…だから?」 「……だから…チューしたら、口に汗つくよ?」 「あき…俺の13年分の愛舐めてんだろ?」 「……舐めてないもん」 「舐めてるって…、どんな状況だったとしても、俺はお前相手なら全身どこでもキス出来るっての…」 「もぉ……なにそれ」 「…変態っぽい?」 「…かなりね」 お互いアイスを口に運びながら、目を見合わせて笑う。 ほんと、めちゃくちゃ変態っぽい。 「よし…じゃ、スーパー行こっか」 「うんっ!」 「あ……アイス食べ終わったら手つないでいいか?」 「………いいよ?」 「よっしゃ!早く食うわ!」 「もー!!爽子供みたいっ!!」 爽は歩きながらすごい勢いでアイスを食べ始めて、すぐに頭にキーンときたらしくひとりで悶え苦しむ。それがあまりにも面白くて、かわいくて、愛しくて、俺はお腹を抱えて爆笑してしまう。 やっぱり…爽は時々めちゃくちゃ子供だ。 そもそも、俺も食べ終わらなきゃ繋げないのにね? もう…、かっこよくて…かわいくて…たまらないよ。毎日、爽の沼にどんどん沈んでいく。 ……大好きが溢れて、窒息してしまいそう。

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