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この先プラトニックにつき【相談編】7

「はーっあっつい~!荷物結構重かったね…!爽がいてくれてすごい助かっちゃった!」 スーパーでの買い物を済ませて帰宅後、すぐに冷蔵庫に食材を入れ終えた。この時期は食材が痛みやすいから時間との勝負。それだけで結構な重労働だ。クーラーはさっきつけたばかりで、まだ効いてないから家の中はかなり蒸し暑い。 俺はシャツの中に風を送り込むように襟口を上下させる。 「ならよかった…重いなら次から車出すか?週末に買い溜めすりゃ、あきひとりでスーパー行かなくて済むし」 「えー?いいよ、買い物は俺の仕事でしょ?」 「別にお前の仕事ってわけじゃ…」 「でも、料理するの俺だし…それに、爽かなり多めに生活費くれるでしょ?ただでさえその事申し訳ないなって思ってるのに毎週買い物手伝わせるのはさすがに…」 「あき」 「んー?」 「……俺が、お前と買い物行きたいの」 「…また……!爽って……ほんとさぁ……」 「え、なに?」 俺はキョトンとする爽を尻目に、勢いをつけてギュッと抱きつく。 やっぱり……爽の言い回しは天才すぎる。絶対相手に気を遣わせない言い方だ。優しすぎて、俺心配になっちゃうよ。 「……あき?」 「んー…」 「なんだよ、どした?」 「大好きすぎて、離れられない病にかかったのっ……責任取れぇ……」 腰に抱きついたまま、ギューっと腕を締め付けて額を爽の胸にぐりぐりする。ちょっと汗ばんでいるのに、爽の身体からは相変わらず柑橘系のいい香りがしている。 この匂い、大好き。 しばらく抱きついていると、無言のままの爽が手で口元を覆っている事に気付いた。見上げると、目が合う。ちょっと…赤くなってるみたい。 「……」 「……爽?」 「………ハァ~~~~……お前、マジ、なんなの?」 「え……?あ、暑かった?ごめ、」 俺が離れようと爽の腰から手を離すと、真剣な顔をした爽に腕を掴まれた。そのままグッと身体を引き寄せられ、後頭部に手が差し込まれる。 「……そ、爽…?」 「マジで、あきがかわいすぎて狂いそう……俺」 冷蔵庫に身体を押し付けられて、思いっきり口を塞がれる。すぐに爽の舌が俺の唇をこじ開けて中に押し入ってきた。爽の熱い舌に俺の舌は簡単に絡め取られて、ヌルヌルと唾液を混ぜ合わせるような濃厚な接触が始まる。爽のキスはいつもそう。俺、そのうち食べられちゃうんじゃないかって毎回思うもん。 「ンッ…ハァっ……っ…!んっ…んんっ…」 「あき、……ッ…」 「…っ…!ぁっ……ンッ…ンンッ……っ」 「はっ……っ…」 爽とは身長差がかなりあるから、上から体重をかけてキスされると、本当に逃げ場がない。その上、今は後ろも塞がれている。爽はお構いなしに俺の口内を舐めしゃぶり、ピチャピチャと卑猥な音を立てながら唇を甘噛みする。あまりの気持ちよさに涙が滲んでくると、それに気を良くした爽が目を細めてニヤッと笑う。えっちすぎる舌の動きと、表情に、俺は腰が抜けかけた。 「ンッ!はっ……ッんっ…やぁっ!も、…ンッ…らめっ」 「…嘘つきっ…ッ……っ」 「んんっ…、や、だっ…んんっ…はな、し、てっ!ンッ…」 「気持ち、…っいいだろ?」 そりゃ、気持ちいいに決まってる。だけど、俺はまだまだキス初心者だ。経験豊富な爽と違って、ちゅーしたのだって爽が初めて。もう少し手加減して欲しい。 爽は俺の口の端から流れ出した唾液を手で拭う。もう、自らのよだれですら制御できない。 さすがに、限界。 「……あっ…、ンッ…!」 「……!えっ!?」 膝がガクガク笑って耐えきれず床にへたり込むと、驚いた爽が慌ててしゃがみ込む。 「あ、あき!!!?ごめん、大丈夫か!?」 「…ん、平気……、」 「ビビった…!やりすぎた…ごめんあき」 「ううん…俺こそ、ごめんね?」 「…え?」 「気持ち、良すぎて…立ってられなかった……」 恥ずかしくて俯きながらそう告げると、爽がゴクリと唾を飲み込む音がする。 「………お前、マジたまんねーな」 再び近づいて来た爽の唇を、両手で塞ぐ。不満そうな顔の爽に、俺はクスリと笑ってしまった。 「ちょっとストップ……暑くて…俺、クラクラする」 「……俺はお前にクラクラしてる」 「あははっ…!上手いこと言わなくていーからっ!」 やっとクーラーが効いて来て、涼しい風が身体を包む。汗がゆっくりと引いてくるのを感じて、ホッとした。狭い部屋ならすぐに涼しくなるけど、家が広いと大変だ。 爽は俺と同じように床に座り込むと、顔に手を添えて再び熱い眼差しを向けて来た。 「………あき、お願い…」 「……へ?」 「もう少しだけ…」 「………」 なにを? とは聞かなくても、爽の"お願い"がキスを指していることがわかった。 だって、爽ってば俺のこと見ながら自分の唇舐めてるんだもん。獲物を前にした、野生動物みたい。 「……えっと、あの…」 「………あき」 「ん?」 「………好きだよ」 「…もうっ…ズルいよ爽…!そんなん言われたら、断れないじゃん」 「断るなよ、気持ちよくしてやるから」 「………手加減、してね?」 「…やだ」 ノータイムで口に蓋をされて、抗議する暇さえ与えてもらえない。逃げても、顎を掴まれて無理矢理舌を入れられる。普段は優しすぎるくらい優しいのに、キスの時だけ強引になる爽が…本当はものすごく好きだ。愛情をぶつけるみたいな情熱的すぎる粘膜の交わりに、興奮で下半身がカッと熱くなる。 これ、勃ってるの…俺だけなのかな? ちゅーで勃っちゃうのは…俺が童貞だから? なんて考えている間にも、爽は角度を変えて何度も俺の口内を犯す。 気持ちいい…… 舌が、脳みそが、身体が、溶けてしまいそう… 気持ち良さでフワフワと浮かれる頭でも、やっぱり考えてしまう。 どうして、触ってくれないんだろう…? ここまでしておいて、触らないって……なに? えっち以前に、身体にすら触ってもらえないなんて…俺の身体って………そんなに魅力ない? 爽が俺のこと大好きなのは言動から見ても明らかなのに…考えてみれば付き合う前の方が、ずっと性的な接触があった。 寝ぼけていたとは言え首を舐められた上…入れたいと呟かれたこともあったし、薬のせいだったけど自慰を手伝ってくれたりもした。 そう、あの頃は触ってくれていたんだ。 なのに付き合ってからは一度も、性的な意味では身体に触ってくれない。 なんで………? こんなキスするくせに……、 どうして? 「ンッ………!んんっ…、…っ、爽っ…!」 「……ッ…なに?」 聞きたい…!! どうして?ってちゃんと聞きたいのに……!! 俺はなんとか爽から唇を離すと、涙目で目の前の色男を見上げる。口を開けたり閉じたり、パクパクさせながら数秒間爽の瞳を見続けた。 "爽は、俺とえっちしたくないの…?" 心の中では何十回も呟いているのに、どうしても言葉に出来ない。もちろん恥ずかしさもあるけど……それだけじゃない。 傷付くのが、怖い。 傷付けるのが、怖い。 爽にとって不本意なことを口にして、嫌われたくない。 1ヶ月爽に冷たくされた日々を思い出すと、余計に声が出ない。あんな辛い思いは二度としたくない。 あの時だって死にたいほど辛かった。だけどもう、俺は彼氏としての爽を知ってしまった。爽無しの生活なんて…もう無理だ。生きていけない。 知らぬ間にどんどん涙目になっていく俺に、爽は少し驚いた顔をした後…そっと目元にキスをしてくれた。 「……あき、ごめん…ちょっと急ぎすぎたか…?」 「……え?」 「あきは俺がファーストキスだったんだもんな…まだ慣れてないのにこんな毎回無理矢理されたら、ビックリするよな?」 「……え、ええ?」 「……ごめんな……泣かないで……?」 「あ、あの…」 「これからはもっとゆっくりするから…許してくれるか?」 チュッ、と頬に優しくキスされて…喜びで心臓がキュンとする。コクリと小さく頷く俺に、爽は安堵したようだ。 なんだか、俺にとって都合のいい感じに勘違いしてくれたみたいで…よかった。 けど、やっぱ、 俺の………意気地なし…… 恭ちゃんの提案はやはり間違っていなかった。大きなきっかけと、大胆さがなきゃ、もうこれは無理だ。 夏の海よ…俺に力を分けてくれ!!!!

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