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この先プラトニックにつき【準備編】6
あーあ、
覚悟できてるはずだったのに………
甘かったな。
いざ本当に始まると思うとこんなに動揺するんだ……俺すげぇカッコ悪い。
いや…考えてみれば予告ありで爽に触られるのは初めてだもんね……そりゃ動揺するかぁ。
不可抗力でも、寝ぼけてでもない………
俺たちは正真正銘正気で、
愛し合う準備をするんだ。
「あき……俺、今週冗談じゃなく死ぬほど忙しいんだ」
「……え?」
「週末の3連休をもぎ取る為に、ちょっと色々あって……出張になっちゃって……」
「えっ!?そうなの!?」
「あきのために……馬車馬の如く働くつもりです………」
「……そんな、大丈夫なの……?俺、爽の身体が心配……」
ただでさえ過労で倒れたこともあるのに…
眉を下げて爽を見ると、何故かめちゃくちゃ晴れやかな顔をしている。
「大丈夫……俺は今完全に無双モードに入っている……」
「…………ハイ?」
「お前の初体験を北海道で奪うんだぞ……?これ以上のご褒美がこの世にあるか…?いや、ない」
「……ムッツリ出てますよー樋口さーん」
無意味に反語だし。
っていうかめっちゃ鼻の下伸びてるんだけど……イケメンが台無しすぎる。
全く……俺のキラキラ王子様は一体どこに行ったんだ。
「つまり……どういうことかわかるか?あき…」
「…え?」
「今週俺が帰って来れないってことは…今からすることをあきはこれから週末までの間…1人でやるってことだ」
爽の口から放たれた言葉が俺の脳内に爆弾みたいに炸裂する。
……え?
「…………それは、俺に……週末まで………マイニチ……オナニーシロッテコト……?」
「ぶはっ…!途中から片言じゃん!」
「いや、爽……本気で言ってる……?」
「別に毎日しろってことじゃなくて……後ろ、出来る時があれば慣らしてってこと」
「………」
「……あき?」
「…………む」
「む?」
「無理無理無理無理無理っ!!!!!!嫌だ俺っ!!!!1人でする方がずっと恥ずかしいってば!!!!!っていうか…それ以前に難易度高すぎ!!!絶対無理っ!!!!」
俺普通のオナニーだって全然したことないのに…いきなり自分で後ろいじれなんて…さすがにハードル高すぎない!!!?
半分泣きそうになりながら爽を見上げると、めちゃくちゃ真剣な顔で見つめ返される。
いや………そうだよね?
このタイミングで冗談なわけないよね…?
わかってる…わかってるけどさ……
だって、俺は知識としてはちゃんと知ってるんだ………
この後、どうやって準備するかを………
「………あき、そんな拒否するってことは……どうやってするか知ってんのか……?」
「…………」
「え…………マジ?」
「あ…の、…………知……………ってる………」
一瞬、心の声を読まれたのかと思ってビクッと肩が揺れた。
「そんな、変……?」
「いや、意外で………」
「なんで……?」
「だって……あきってめちゃくちゃピュアだから……そういうこと絶対知らないと思ってた……」
「……俺だって……お、とこだよ……?」
口では強気なことを言いつつも、恥ずかしくて両手で顔を覆う。
お願いだからそんなに見ないでよ爽…!恥ずかしくて死んじゃう!!!
爽が黙っている間にゆっくり深呼吸して、落ち着いてからやっと手を外して正面を見る。
「あの…………爽と付き合うことになった時、一通り調べたの……だって、俺も爽と……シたいって…思っ」
ガッと勢いよく爽の手が俺の口を塞いで、驚いて若干のけぞる。予想外すぎて声も出ない。
「…!?」
「……ちょっと…マジで、あき……ヤメテ」
「……?」
「お前は……あれか……俺の理性ぶち飛ばす天才か……」
余裕の無さそうな爽の表情に、どうやらまたしてもよくわからない爽の琴線に触れたのだと理解した。
「……ハーーーーッ………もう、やば………天然やば……」
「……爽…?」
「頼むから……今は誘惑しないでくれ……いっぱいいっぱいだから…その才能は…本番まで取っておいてくれないか…?」
「……え…えーっと…?」
「だから、やっとお前に触れるのに…絶対途中でやめなきゃいけないことが確定してるこの状況……俺にとってはマジで拷問ってこと」
「………あー……なるほど……それは、ごめん……」
「なんであきが謝んだよー…」
俺の肩口に顔を埋めた爽は、大きなため息をつく。しょんぼりした声がなんだかかわいい。
……誘惑、してないんだけどな。
「………じゃああき………協力する心構えは…出来たか?」
「………出来てなくても、もう……逃してくれないでしょ……?なら、諦めるしか……ないもんっ……」
「……逃げたい?」
ゆっくりと首を横に振る。
もう、
腹括るしか…………ない。
爽に抱かれる準備ができるなんて……触ってくれないって悩んでたころに比べたら…幸せすぎるはずなのにね。
こんな……羞恥心なんかに負けてる場合じゃない。
ちゃんと向き合うって………決めたじゃん。
「………恥ずかしいけど……、逃げたく……ないっ……」
「………そっか…よかった」
「爽………、」
「ん?」
「たくさん……駄々こねて………ごめんっ………俺……ちゃんと、言うこと聞く…から…だから……」
「…ん?」
「………優しく……してね?」
「……もちろん」
そこからは案外スピーディーだった。
爽が袋から取り出したのは、案の定中を綺麗にするお薬で……
ソレを絶対に自分が入れると言い張る爽を死ぬ思いで説き伏せて、なんとか1人でお風呂に行かせてもらうことに成功した。
"この部分"を一緒にやりたいなんて、正直俺は一生無理。
俺が駄々こねて散々拒否してたのだって…爽が絶対コレを1人でやらせてくれないと思ったから。
必要な行為でも、爽に見られるのは絶対嫌。
俺、爽にはそんな姿死んでも見られたくない。
綺麗なところしか見て欲しくない。
だけど、案外簡単に引き下がってくれて…よかった。その辺のデリケートな話に対してはちゃんと理解があるらしい。
正直、ホッとした。
男同士の性行為で一番高ーいハードルはたぶんここ。男女の行為じゃやらなくていいことを、繋がる為に毎回やらなきゃいけない。
実際やってみると想像していたよりずっと…恥ずかしいし、苦しいし、辛い。
…………それでも、俺たちが1週間後に繋がることは確定事項。これを最後までやり切らなきゃ、準備すら出来ない。
……だから、我慢できた。
元からゲイだったわけじゃない俺たちにとっては……こんなの、相手を本気で愛してなきゃ……
乗り越えられるわけない。
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