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シルクハニーの死にたい理由【前編】5

「恭介、お前今日すげー真面目だったな」 「えー?どう言う意味~?」 「仕事中全然喋んねーから腹でも壊したのかと思った」 「ヤダァー!爽くんってばお下品~っ!」 いつものように定時であがろうとデスクから立ち上がった爽は俺を見下ろして、しょーもな!と呟いた。 今日も今日とて、爽は愛する暁人のために最速で家路に着く気らしい。 あ…そうそう! 俺の命の恩人で、(自称)大親友の樋口 爽はかなの親友である日下部 暁人と交際中。その上爽とかなは母親同士が従姉妹で、血の繋がりもあるから…色んな縁で俺たち4人はかなりの頻度で会っている。 最近の俺は、このとんでもない美形3人組と一緒にいすぎて、自分の中の美の基準が相当上がってしまった気がする。 まぁ、個人的にはやっぱりかながダントツで世界一綺麗だけどね! ちなみに…暁人と交際をスタートさせて以降の爽は、どれだけ飲みに誘っても、『あきがご飯作って待ってるから帰る』をテンプレのように繰り返すようになった。爽の暁人への溺愛っぷりは日に日に常軌を逸していってるけど…本人たちが幸せなら外野は何も言うまい。 「実は~今日かなと外で会うんだぁ~!デート!」 「へぇ…!だからか……」 「かなのためなら俺はいくらでも真面目に仕事しますっ!!!!」 「いやいつもしろよ……ってか要を外に誘い出すとかやるじゃん恭介…どんな魔法使ったんだよ」 「ふっふーん!強いて言うなら~アルコールマジック?」 「ああ…ワインで釣ったか」 「あらまぁ、バレバレ?」 「俺たち再従兄弟(はとこ)なんで」 クスクス笑う爽は相変わらず抜群に顔が良くて、無駄なキラキラを浴びせかけられる。そんな綺麗な笑顔、こんなとこで振り撒くなよな。会社の女の子が無駄に騒ぐから、暁人の前だけにしとけっつの。 「じゃ、俺行くわ」 「うーい!また明日なー!」 「………あ、恭介」 「ん?」 「……要のこと、傷つけんなよ?」 「……念押すねぇ…」 「そりゃ……大事な再従兄弟だし…その上あきの親友だぞ…?当たり前」 「……死んでも傷つけないから大丈夫」 「……そっか、ならよかった……がんばれよ」 っていうか…むしろ今日は俺が傷つく可能性の方が高いっての。 爽はこちらに振り向くことも無く、ヒラヒラ手を振りながら去っていった。その後ろ姿を見送って、俺もゴソゴソとデスク周りの片付けを始める。 さてさて…俺の女王様は時間通り来るかなー……? 外で待ち合わせなんて初めてだから全然予想できない。ていうかあいつどうやって来るつもりだろ……車…?は、ないよな…?酒飲む前提だし。なら…電車? やばい、かなが電車乗ってるところ全然想像出来ない…似合わなすぎる。……あ、普通にタクシーか。 ぼんやりと考えながら鞄だけを抱えて立ち上がると、まだ帰っていなかった同じ部署の社員が一斉に窓の外を眺め始めた。異様な光景に驚いていると、割と仲の良い後輩の男が俺に手招きをした。 「和倉先輩!!見てくださいよアレ!」 「ん~?なに…?俺急いでんだけど…」 「今社内チャットで情報来たんですけど、正面入り口前の道にすんごい綺麗な人がいるらしくて…!見たらぶっ飛びました!!!マジで芸能人みたい!!!!先輩絶対タイプですよ!!!!美人大好きでしょ!?」 「………芸……能人…?」 後輩が必死に指をさす窓の下を慌てて覗き込むと、真っ赤なポルシェが目に飛び込んできた。 「…………うわっ」 「ね!?美人でしょ!?ひえ~…足なっが……サングラスかけてるしこっからじゃよく見えないから俺下まで降りてみよっかな…!あわよくばお声がけを…!」 「………ダメ」 「……え?和倉先輩…?タイプじゃないんですか?あんな美人…放っておいたら他のやつに声かけられちゃいま」 「絶対ダメ!!!!!!あの人はダメだから!!!!」 「はい?」 「アレ俺の!!!!!」 かなに聞かれたら確実に鉄拳を喰らいそうなセリフを残して、俺は一目散に走り出す。 いや、死ぬほど目立ってんじゃん!!!!かな!!!!!!!! 全力疾走で正面玄関に到着すると、派手な高級車の横でグッと伸びをするスタイル抜群の美人と目が合った。ドレスコードを気にしてか、いつもよりフォーマルな服装だ。上品な深緑のセットアップに、ヒールがちょっと高めの黒い革靴。さすがデザイナー志望…めちゃくちゃお洒落。パンツがタイトだから足の長さがより際立つ。左耳で複数揺れているピアスたちは恐らく本物のダイヤモンドだろう。キラキラと眩しいくらいに輝く宝石の美しさに、顔面が全く負けていない。 周りを歩く人は案の定、かなを舐め回すように眺めている。男も女も、それこそ老若男女問わず…みんなだ。話しかけるタイミングを今か今かと見計らっている連中も相当な人数いる。 そうだろうなとは思っていたけど…やはりかなは男女問わずモテるタイプらしい。 みんなが見たくなる気持ちもわかる。 そりゃそうだ。こんな美人、普通その辺にはいない。 普段家で会う時は一対一だから…かなが周りと比べてどれだけ美しいか少々失念していた。いや、もちろん毎日綺麗だなとは思ってたけど…こう、俺の日常のルーティンの中にいきなり現れると……正直直視できないくらい眩しい。あまりにも綺麗すぎる。 なんか、初めてかなと会った時の衝撃思い出しちゃったな。

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