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シルクハニーの死にたい理由【前編】6
俺と目が合ったかなは、かけていたサングラスを外すと小さく手を振りニコッと微笑んだ。案の定、かなの放った弾丸が俺の心臓にバキュンと音を立てて突き刺さる。急所に一撃。なんて威力だ。
どうやらハートを撃ち抜かれたのは俺だけじゃなかったようで、至る所から息を呑む声が聞こえた。もらい事故多数。盛大な玉突き事故状態だ。
クッ……!
いまさらかなのビジュアルに狼狽えてる場合じゃないっ…!
今突っ込むべきところは、絶対そこじゃないっ…!!!
「恭介ー!おつかれー!」
「かな……」
「早かったなー?もーちょい待つかと思ってた」
「……えっと……急いだ…から……」
「そっかナイス!あ、ついさっき爽がすごいスピードで帰ってったぞ!アイツいつもああなの?暁人に会いたくて必死って感じですげーウケた!余裕なさすぎ!」
「あー…まぁそうだね…いつもそう………てか、かな…なんで車…?酒飲まないの…?」
「え?いや飲むけど?帰りは代行呼ぼうと思ってた」
「あ…そっか…」
「……?なんだよ…お前なんか変」
かなはゆっくり歩いてきて、俺の顔を下から覗き込んだ。バサバサのまつ毛が揺れていて、改めてその瞳の美しさを思い知る。
だから、眩しいってば!!!!
俺がサングラス欲しいっつの!!!!
「おーい恭介?マジでどーした?」
「い、いや………相変わらず目立つなぁって……」
「あ?あー……まぁ、俺にとっては日常なんで……あ、もしかして迷惑だったか…?ここお前の会社の前だし……悪い……もっと路地裏とかで待てばよかった…」
「え!!?いやいやいや違うよ!?迷惑なわけないじゃん!!!」
「え…」
「心配で焦ってたの俺!!!!」
「………は?」
かなは眉間に皺を寄せて、訳がわからないとでも言いたそうな表情で俺を見た。
そっか……
かなはこういう意味で心配されることには慣れてないのかな…?
「だってかな綺麗すぎるんだもん!!!!変な奴に声かけられないか俺心配で…!」
「………お前、俺の腕っぷしの強さ知ってるくせによくそんなこと言えんな……どうとでも撃退できるっつの」
「えー?そりゃかなは物理的には超強いけど…そこは関係なくない?」
「……」
「かなは俺の大切な人だから…心配したっていいでしょ?」
そりゃあかなならどんな男だってワンパンで簡単にノックアウト出来ちゃうんだろうけど……それは俺が心配しない理由にはならんでしょ。
それに……かなには大きな"弱点"があるしね?でも、これはきっと本人はまだ触れてほしくなさそうだから……
今は知らんぷりしていよう。
たぶんかなは、俺が"コレ"に気付いていることすら知らないから。
…なんて考えていたら、目の前の美人の顔がブワッと赤く染まった。予想外の反応に驚いていると、キッと睨まれて…そのままボソリと呟くのが聞こえた。
"見んな…"
「……ッ!!!!もーマジでたまんないっ!!!!!照れてるかなかわいいっ!!!!」
「チッ!!うるせーよ変態っ!!!」
「ねぇねぇねぇどこ!?どこがかなのツボに入ったの!!?ねぇー俺わかんないっ!!!今後の参考にしたいからどこに照れたのか細かく教えて!!!お願い!!!!」
「うるっせぇー!!!早く行くぞバカっ!!!」
「キャーッ!!!なにこの愛しい生き物~っ!!!抱きしめさせてーっ!!!」
「ハァッ!?ふざっけんな!!!指一本でも触ったら通報してやるっ!!!!」
照れ隠しでプンプン怒るかながかわいくて仕方ない。かなの一挙手一投足が俺のハートに刺さりまくって、ますます告白へのボルテージが上がっていく。
やばいなぁ…
マジで俺、一生好きなんだろうな…この人のこと。
笑いを堪えながら車に乗り込もうとすると、何かが投げられて慌ててキャッチする。
手の中に収まった物を見ると、車のイグニッションキーだった。
「………え?」
「おー、ナイスキャッチ…お前反射神経は悪くねーな」
「…これ、俺に運転しろってこと?」
「もちろん」
「ええーっ!!?」
俺のリアクションなんて丸っと無視して、かなは助手席に乗り込んだ。それを見て仕方なく、運転席に回り込む。
「こんな高級外車俺に運転させないでよっ!!!!」
「だって俺店知らねーし」
「いや、ナビ入れるってば!!!」
「大丈夫、この車外車だけど右ハンドルだから」
「そういう問題じゃなくない!?」
「あ、ウインカーは左だから気をつけて」
「ねぇ、なんでそこの説明は無駄に優しいのっ!?」
「ふっ……死にたくないから」
「極端!!!!…ていうか俺に拒否権ないんですか!?」
「あははっ!ないでーすっ」
ケラケラ笑いながら助手席でシートベルトを締めたかなは、首を傾げながら俺を見て微笑む。
「早く出発してよ……ね?……きょーすけくん?」
「…………グアアアアッ…ズリィイイイイイ!!!!そんなん俺逆らえねーじゃんっ!!!!好きっ!!!!結婚したい!!!!」
「ブハッ!!!お前クソ単純!!!!」
「なんとでも言えっ!!!!」
ヤケクソで車を発進させた俺を見てお腹を抱えて大爆笑し始めたかなは…その後お店に到着するまで笑い続けた。
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