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シルクハニーの死にたい理由【後編】6
「かな……」
「………んぅ……」
「あはっ!…泣いてんのもかわいいねぇ…」
「うるっさ…!」
「ね………俺のこと、彼氏にして…?」
「………あ、………う……」
「ね?お願い」
俺が口籠もっている間に、恭介は額同士を合わせてニコッといつもよりもっと優しい顔で笑った。
好きな人に好きって言ってもらうこと自体…
願っちゃいけないことだと、思ってたのにな………
「大好きだよ、かな…」
「……ん、」
「俺と結婚しよ?」
「………お前、今ソレ言うのかよ…ぜってぇ今じゃねーじゃん!!」
「えへへ~どさくさに紛れたらそこもOKしてくれるかなって~!」
「んなわけねーだろ…!そんなチョロくないっつの!」
「ちぇ~…やっぱダメかぁ!」
「…………けど、」
「……?けど?」
キョトン顔の恭介に、俺は一度だけクスッと笑って、首に腕を絡める。
……降参
…………もう、いい加減………
落ちてやるよ
「彼氏には……してやる」
「…………え」
首を傾げて下から上目遣いに見上げると、口を開けたままの男の顔が一気に赤く染まった。
「あ……先に言っとくけど、浮気したら殺すから……お前も、相手も」
「…………」
「てか…前の彼女より大事にしてくれなきゃ許さねぇし、毎日会いに来てくれなきゃ無理だし、ちょっとでも不安にさせたら絞め殺して………って……お前、大丈夫か?」
「…………」
「………?オイ、きょ」
照れ隠しで饒舌になっているところをいきなり全力で抱きしめられて、息が止まるどころか骨が軋んだ。
あまりにも苦しくて、ギブアップするように必死で恭介の身体をバンバン叩くと、震えながら泣くブッサイクな顔が目に飛び込んできて、思わず吹き出してしまった。
「ブハッ!!!!!なぁお前さすがにブスすぎっ!!!」
「ねぇええええかなぁああああ!!!本当に付き合ってくれんの!!!?俺マジでかなの彼氏!!!?これ夢!!!?」
「うるっさ…!!夢じゃねーよ……何回も言わせんな恥ずかしいっ…!!!」
「うわぁあああああんっ…!!!嬉しいイイイイイぃい!!!!マジで付き合えたぁああああああああやばいーーーーっ!!!!かなだいすきぃいいい!!!」
「なんで秒で俺の降水量超えてんだよお前っ…大洪水じゃねーか」
「だっでぇ……うっ…!俺っ…!必死にカッコつけてたけどっ…また振られたらどうしようってめちゃくちゃ必死だったからっ…!」
「……お前さ、今日俺に振られたらほんとに諦めるつもりだったの?」
「そんなわけないじゃんっ!!!うーっ…今日追い出されたとしてもっ俺絶対かなのこと諦める気なかったもんっ!!!振り向いてくれるまで付け回す気だった!!!!」
「……うーわ……お巡りさんコイツでーす」
「えへっ…!ハーイ!俺が彼氏でーす!」
恭介は号泣しつつニコニコと笑う。
全く器用なやつだ。感情ごっちゃごちゃじゃねーか。
「ねぇねぇ…かな?」
「……?なんだよそのニヤニヤ……」
「えへへ~!…よいっしょ!」
「……!!?は!?」
恭介は勢いよく立ち上がると、俺をギュッと抱き締めたままクルクルとその場で回りだした。
「えっ!?うわっ!!?ちょ、降ろせばかっ!!!」
「うふふふふっ!!!かなぁ!!!俺幸せぇ~!!!!」
「ばかっ!!マジ危ねぇって!!!!」
体重は軽いけど、俺の背は175cmで…身長的には平均以上ある普通の男だ。なのに、こんなに軽々抱き上げられて、その上回されるなんて思ってなくて正直驚いた。
恭介……海の時はTシャツ越しでよくわかんなかったけど、たぶん結構鍛えてるんだと思う。抱き締められた時の腕の感触も、めちゃくちゃ硬かった。
正直に言うと、そういうとこ…普段とのギャップで結構ドキドキする。
「はぁ~………俺、今日死ぬのかなぁ……」
「なんだソレ……」
「だってっ……人生で初めて好きな相手と付き合った記念日だよ?何事も初めてって特別でしょ?感動しちゃうってば…!」
「…………おい」
「んー?」
「………次があるみたいな言い方やめろ」
「え?」
「お前が好きな奴と付き合うのは俺が最初で、最後なんだから…"初めて"とかつけんな……二度とこねーよ」
恭介が好きな人を手に入れる瞬間が、これ以降何度もあってたまるかっての。
俺はお察しの通り、超心が狭いんだ。
「………………ハァンッ!!!!!ねーーーーー!!!この人かわいい上に男前っ!!!!!ヤバイッ!!結婚を前提に結婚を申し込みたいっ!!!!!」
「だーーーーっ!!!うるっせぇなっ!!!意味不明だっつの!!!!!つーか結局求婚してんじゃねーかよっ!!」
「俺も意味わかんないっ!!!でも、大好きっ!!!めちゃくちゃ好きっ!!!!幸せすぎるっ!!!俺かなのこと絶対放さないからねっ!!!!」
「……ほんっと…………ムードねぇなぁお前」
思えば、初めて会ったあの日から俺は恭介に求婚されてたんだよな。あまりにもチャラくて全力でスルーしてやったけど。
ってことは…結局、俺たちの会話って全然進歩してないじゃん。
そう思ったら余計笑えてきて、なんだかもう止まらない。
「ふはっ…!…なんか、最終的には…お前の思い通りだよなぁ……」
「……?え……かな?」
「まぁ、いっか…」
「……?」
「諦めないでくれてありがとな………」
「……へ…」
「ストーカー」
「ちょっ…!!?ねぇ!!!!かなこそムードなくない!?いや、ストーカーの自覚はあるけどさぁ!!!?」
「あははっ!あるのかよ!」
やっぱり、毒舌はやめられそうにないけど……
これも俺の"魅力"…………なんだろ?
「恭介………」
「ん?」
「1回しか言わねーから脳みそのハードディスクにしっかり刻んどけよ?」
「…………え?」
恭介の耳元に唇を近付けて、小さな声で呟く。
「………だいすき」
俺は、泣きながら笑う彼氏の身体を改めてギュッと抱き締め返した。
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