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シルクハニーの死にたい理由【後編】8
話し終えてしばらくたっても、暁人はひたすら泣きながら俺の名前を呟いていて……愛しさで胸が苦しくなった。
「暁人……、もう俺のために泣くな……お前が悲しいと俺も悲しい」
『うっ……ぐすっ………ごめんっ、止まんなくてっ……!』
「ったく……身体中の水分使い切る気かよ」
『ううっ……だって、勝手に出るんだもんっ……』
「ふはっ…!ほんと、泣き虫だよなぁ暁人は…………まぁ、お前だとかわいいから全然いやじゃねーけど」
隣で俺と暁人の会話を黙って聞いていた恭介が、ハッとしていきなり俺の顔を覗き込んだ。
「ちょっと!!!!ソレ、俺が泣くのは暁人と違ってかわいくないから嫌だって意味に聞こえるんですけどぉ!!!?」
「いや、そういう意味ですけどぉ?」
「ねぇーーー!!!!俺やっぱ嫉妬するっ!!!暁人にもするぅ!!!!俺の前で暁人とイチャイチャしないでぇーーー!!!!」
「うるせーーーーっ!!!今電話中っ!!!黙ってろよアホ!!!!」
「ひどいーーっ!!!!それが彼氏に対する言い草ですかぁ!!?…あれ、でもかなに叱られんのすげぇ興奮するからアリかも……もっかい言ってもらっていい!!!?」
「おっ前…!!!!今から伝えようとしてることサラッとネタバレした上によくそんなキモいこと人前で言えんな!!!!?」
「そんなぁ褒めすぎだよぉ…えへへっ」
「褒めてねーーーーよっ!!!!!!」
『……ブハッ!!!!あははははっ!!!ねぇ、もー無理っ!!!2人ともおもしろすぎっ!!!』
俺と恭介の会話を電話越しに聞いていた暁人が、勢いよく吹き出したのが聞こえた。
さっきまであんな泣いていたのに………、やっぱ恭介って……人を笑顔にする天才なのかも。
調子に乗るから絶対言ってやらねーけど!
『……ぐすっ……2人…うまく、いったんだね?』
「ん………、えっと……まぁ……おかげさまで……その、付き………合った……」
『………』
「………?……暁人?」
『………うーーっ!やばーいっ!照れてる要の声がかわいくてしんどいっ!!!ギューってしたぁい!!!』
「………はぁ?お前まで恭介みたいなこと言うなっつの…」
「暁人ーっ!!!俺がお前の分までかなをギュウギュウに抱き締めとくから安心しろーっ!!!!」
『恭ちゃーーんっ!任せたよー!!!』
キャアキャアと盛り上がる親友と彼氏に、ついつい微妙な顔をしてしまう。
なんだこいつら。
嫉妬はどうした嫉妬は。
秒で共同戦線張んなよ。
『………ねぇ、要?』
「……ん?」
『俺、ずっとこの言葉を要に返せる日を待ってたんだ!』
「……え?」
『………幸せになってね!』
その時の暁人の優しい声を、俺たちはきっと……一生忘れない。
暁人との電話を終えて、肩の荷がすべて降りた俺は、いつものようにワインを引っ張り出してきて飲み始める。
当然のように恭介もそれに付き合ってくれて、2人で語らいながら美味しいお酒に舌鼓を打った。
付き合ったからって何が変わるもんでもないんだなぁ…なんて考えながら、ワイングラスをグラグラと揺すっていると、恭介がゆっくりと立ち上がったのでそれを目線で追う。
「……?なに、どした?」
「……んー?いや、もう遅いし…俺そろそろ帰るわ」
普段と寸分違わないセリフ。
恭介って……勝手に家に入ってくるし、ノーアポの上来る時間すらまちまちだけど…酒飲んでどんなに遅くなっても絶対帰るんだよな。
泊まらせろー!とは一度も言われたことない。
これってやっぱり………
「なぁ、恭介…?」
「ん?」
「お前が絶対家に帰るのは……妹さんがいるから?」
「………あ……、うん……バレてたかぁ…」
「そりゃな…?」
妹さんを1人にさせたくないからどんなときも必ず帰宅するようにしてるんだろうなーって思ってた。
本人があえて明言してなかったから、知らんぷりしてたけど。
「1人にしちゃ可哀想かなって思ってさ…昔っから夜はかならず家に帰るようにしてた………まぁ、妹にはうざがられてんだけどな?あいつもう高校生だし…だから、もはや自己満?」
「……そっか」
「……?かな?…え、なんで笑ってんの…?」
「………妹さんの話……初めてちゃんとしてくれたな~って…嬉しくて」
「………え?あー…うんっ話す機会なかったから…」
「嘘つき」
………ほんと、恭介は嘘つき。
でも、俺ちゃんと知ってるよ?
お前が嘘つく時は、いつだって俺のためだろ?
「俺やっと気付いたんだ…………俺が女性恐怖症だって勘付いてたから…お前妹の話避けてくれてたんだよな……」
「…………なんだ、やっぱバレバレかぁ~!!あははっ…ほんと俺、かっこつかねぇなぁ……」
「………そんなこと、ない」
「………え?」
「そんなこと、ないよ……恭介」
持っていたグラスをテーブルに置いて立ち上がると、恭介の首に腕を回して下から見上げる。
10cm近い身長差は、この状況をより扇情的に見せる。
「……へ!!!?えっ!?かな!?えっ!?よっ…酔ってる!!?俺かなが酔ってんの初めて見たんだけど!!!!?」
「酔ってねーよ…………ほんのちょっと、素直になってるだけ……」
「………………たまんないんですけど」
「鼻息荒れーよ変態」
どんなに下心丸出しの顔されたところで、俺はセックスもキスも出来ない。
だけど、それでも………
もう少しお前と一緒にいたいって思う俺は、
わがままで、残酷だよな?
「俺……もう、寝る」
「えっ……あ、うんっ…」
「………お前も、来る?」
「……ハァ!!?」
「帰る前に…寝かしつけてよ………彼氏だろ?」
「えっ!!?えっ…ええっ!!?待って、かな………かなってもしかして……」
「……?なんだよ」
「…………恋人にはめっちゃ甘えるタイプ……?」
真っ赤になりながら俺に問う恭介に、俺もつられて赤くなってしまう。
「し、知らねーよ………付き合ったの…お前が初めてだし……っ」
「エッ!!!?そうなの!!!?」
「…あーっもーいいっ!!!!お前帰れっ!!!!」
「いやいやいやいや待ってよ!!!これで帰れるわけないじゃんっ!!!!嘘でしょ!!!!?俺かなのはじめての恋人なの!!!?ねぇ、こんなことある!!!?こんな美人でかわいい人の…この表情見たことあるの俺だけってこと!!!!?やばいっ……優越感で頭の血管切れそう!!!!!」
「………クソっ言うんじゃなかった…!!もーやだコイツ…」
「さぁほら寝室行こうっ!!!!早くっ!!!」
「離せぇーーーっ!!!!!」
恭介は、茹で蛸みたいに真っ赤になった俺の手を引いて歩き出す。
俺が握るはずだった主導権は、いつの間にか目の前の男が握っていて………それが案外嫌じゃないんだから……マジで人生って何があるかわからない。
コイツが隣にいる限り、きっと俺は二度と……
死にたいなんて、思わない。
というか、恭介が思わせてくれない。
寝室の扉を開いて、恭介は一度こちらを振り返る。
「かなぴょんっ!俺にはいくらでも甘えていいからね!?」
「お前っ…!…そのアホみたいなあだ名やめろって言ってんだろ!!!!!!」
「あ!これ俺髪むしられる!!?」
「……!だからなんだよその無駄な記憶力!!!!」
「えー?だって大事な恋人との会話だよー?俺たぶん、かなと初めて会った日から今までの会話……一字一句間違わずに全部言える!!!すごくない!!!?愛じゃない!!!?」
「………このっ、ストーカー!!!!!」
「なんでーーーーーー!!!?」
…To be continued.
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