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例えば及ばぬ恋として【旅行編】2

「うっわ…!!ねぇ、爽!!めちゃくちゃ涼しい!!!」 「うおっ……マジだ!!!」 「まだ建物の中でコレェ!?」 「東京と10℃近く違うからなぁ……あき上着着る?」 「うんっ…!ありがと…!」 「ん…、はい…これで良し」 爽は俺のカバンから上着を引っ張り出してきて、腕を通す手伝いまでしてくれた。 なんてスマートなんだ。 「これ……また要が作った?」 「え……あ、服?そうだよ!!」 「へぇ………ほんとにあいつは……あきをかわいく見せる天才だな」 「………お、……俺が着なくても…要の作る服はかわいいよ?」 「は?何言ってんだよ…」 「え?」 「俺はファッションのことよくわかんねーけど……1+1が3にも4にもなる世界だろ?要が作って、あきが着ることに意味あるんじゃねーの?」 サラリと自然に褒められて、キュンとする。お洋服も、要も大好きな俺としては……この上ない褒め言葉だ。 「あ………ありがと……嬉し……」 「…ん、どういたしまして」 改めて…大人としても、男としても、超一流な恋人にドキドキしてしまう。 爽はほんと……ナチュラルに王子様だなぁ。 それにしても、要に言われて上着も持ってきておいてよかった。そういうとこも気回るのはあれなのかな……血筋? 「北海道はもうすっかり秋なんだねぇ……」 「そーだな…飛行機からでもかなり紅葉進んでんの見えたよ」 「ほんとに!?俺も見たかったーっ!!」 「このあとたっぷり見れるって」 「…そっか!やったぁー!」 飛行機から降りて、空港までの通路の時点ですでに東京との気温の違いを実感した。予想よりずっと涼しい。9月でこれなら冬は一体どうなっちゃうんだ……想像も出来ない。 人生初めての北の大地は、思った以上に刺激的みたい。ますますワクワクしちゃうね! 「ねぇねぇ爽は北海道何回くらい来たことあるの?」 「えー……あー、多分10回くらい……かな?全部出張でだけど」 「そうなの?旅行は?」 「旅行は初めてかな」 「へぇ…意外…!友達とか彼女とは来てないの?」 「来てない………ってか俺基本的に人と旅行すんの嫌いなんだよ疲れるし」 「……えっ」 爽は少しだけ眉間に皺を寄せて話し始める。 いつも柔らかい表情を崩さない爽にしては珍しい……一緒に住んでる俺ですら、なかなか見ないレアな表情だ。 「旅行ってさ……行く前から休み合わせたり計画練ったりでめんどくせぇのに、行ってからも四六時中一緒だから色々気使うだろ?」 「まぁ…そうかも」 「だろ?だからすげー嫌い……家族とくらいしかまともに旅したことないんだよ俺」 「……へぇ」 「でも、あきと一緒なら…話は別」 「え?」 「今回は人生で初めて、自ら行きたいって思った旅なんだ」 爽は俺の顔を見て、ニコッと優しく笑った。 確かに…… 爽は俺から見たって、この旅を指折り数えて待っていた。 爽のご両親からハネムーンの提案をされた時、咄嗟に北海道に行きたいって返したのは俺だったけど…蓋を開けてみれば、旅行を心から喜んでいたのは俺より爽の方だったかもしれない。 「俺、自分でも結構驚いてるんだ…」 「え…?なんで?」 「だって……あきとならどんな所でも行ってみたいし、旅行じゃなくても四六時中一緒にいたいなって思うから」 「……!」 爽の言葉に、ちょっと大袈裟に胸が鳴る。 うわ、俺今……ときめいた。 「これって、俺にとっては結構すげぇことなんだぞ?」 「そう……なの?」 「うん……あきって、俺の中の超特別枠だからさ」 そういえば、以前楓さんが言ってたっけ…… "樋口って基本人に興味ない"って。 その時はピンと来なかったけど、今ならわかる。たぶんこれって…そういうこと。爽は友達も多いし人付き合いもすごく上手いけど、他人には一線引いてるんだって付き合ってから理解した。 俺がそれにずっと気付かなかったのは、俺だけは最初から爽の"例外"だったから……なんだと思う。 人に興味なくて、旅行が嫌いだとハッキリ言い切る彼に、特別だと思われているのは……正直相当気分がいい。 だって……優越感で頭がクラクラしちゃうくらいには、俺も爽に夢中だから。 やばいなぁ…… 相思相愛って、こんなにも満たされるんだ。 本当にごく自然に、さもそれが当たり前みたいに爽の左手が俺の右手を握りしめる。そのまま絡めるように手を繋がれて、周りに大勢人がいることを思い出した。だけど、もうそんなの構っている余裕ない。 ゆっくり隣を見上げると、有無を言わさぬ完璧な笑顔を返された。 なんて優しい瞳だろう…… 「……っ、そんな喜ばせないでよぉ…!恥ずかしいってば…!」 「嬉しくない?」 「うっ…嬉しいけどっ…、やっぱ…オーバーキル!絶対やりすぎ!」 「えー?でも俺…照れてるあきが見たくてやってるからなぁ…」 「なにそれ!わざとやってんの!?」 「当然!」 「爽ひどいーっ!!!」 「あははっ!だから、俺好きな子はいじめたくなるタイプだって前に言ったろ?忘れちゃった?」 忘れる訳ない。 っていうか、毎日やられてるんだから忘れようがない。 ほんと、小学生男子なんだから。 俺は口をキュッと結んで爽をちょっとだけ睨みつける。だけど、多分…ダメージゼロ。ニヤニヤ笑いながら俺を見つめ返す王子様には、どうやら何をしても無駄なようだ。ちくしょう。なにしてもかっこいいから余計手に負えない。

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