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例えば及ばぬ恋として【旅行編】3

「な、あき…空港の中ちょっと見てく?」 「え!いいの!?」 「うん…新千歳空港めちゃくちゃ見るとこたくさんあるよ」 「えっ!?ほんとに!?」 「ふっ…!お前反応いいなぁー!でも、そんなたくさん時間ある訳じゃないからサラッとな?」 「うんっ!!やったー!!!お土産買おうかな!!!」 「いや、それは帰りでよくね?」 「あっそっか!」 2人で笑いながら空港の中に入る。 爽の言った通り、見るところが沢山ありそうだ。すぐ側にあった案内板を見上げてさらにびっくり。ほんとにすごい。 全体の見取り図の中には、およそ地方の空港とは思えないような施設が目白押し。こんなの、丸1日あったって回りきれる自信ない。 「えっ…………は!!?空港内に温泉と…映画館まであるの!?」 「そうそう、アミューズメント系と食事系はとにかく充実してる」 「エエエッ!!?なにこの空港!!!すごっ!!!テーマパークじゃん!!!」 「あははっ!だよなぁ……あきめっちゃ好きだろーなって思ってた……どこ行きたい?」 「えーっとねぇ……んー…あ!!ここいきたい!!!チョコレートのとこ!!」 「ん、いいよ」 爽は俺と手を繋いでいる手とは逆の手で、口元を覆ってあらぬ方向を見つめている。 あれ………?照れてる? 「……爽なにその顔…?」 「いやぁ……俺が予想してた100倍あきの反応がかわいくて……悶えてる…」 「……俺そんなはしゃいでる?」 「うん、すっげーかわいい…顔中にキスしたい」 「エッ!!!?ここで!!?ダメだよ!!!?」 「ブハッ!!わかってるって!!もう学んだ」 ついに学習してくれたかと、ホッとため息をつく。 さすがに空港内でそんなことされたら、男同士とか抜きにしてもただただ恥ずかしい。 爽に手を引かれ、ゆっくり空港内を進んでいくと、至る所に北海道ならではのお土産屋さんや飲食店が並んでいて目移りしてしまう。うに、いくら、カニ…今にも涎が出ちゃいそうな海産物のオンパレードに、北海道の乳製品をたっぷり使ったチーズやあまーいスイーツ…そしてトドメのラーメン!ヤバすぎる!!!! 爽の言う通り、お土産買うのは帰りでいいけど…これ相当悩んじゃいそう。ちょっと早めに宿を出て、ゆっくり吟味する時間作らなきゃダメかも。 俺の手を握ってご機嫌で前を歩く爽はと言えば、マップを見なくても空港内に何があるのか完璧に把握しているらしい。だって、歩みに全く迷いがないもん。 「ほら、あそこだよチョコレートのお店」 「……わ!ほんとだぁー!!かわいい!!」 「あき、見てあれ」 「えっ!…わぁ!!!おっきいチョコだ!!!!」 爽の指差す先には、大きなチョコレートのオブジェが飾られている。どうやら直営店と工場と博物館が併設されているみたいだ。こんな施設が空港内にあるなんて信じられない。楽しすぎる。 「写真撮るか?」 「うんっ!!!」 「よし、じゃあ……あきそこに立って」 「はぁーい!あ…!ねぇ爽!」 「ん?」 「美味しそうに撮ってね!!!」 「…ブハッ!!!!」 俺の言葉に勢いよく吹き出した爽は、周りが振り返るくらい盛大にお腹を抱えて爆笑している。 …え…なんで?俺、変なこと言った? 「爽…?なんでそんな笑うの?」 「あはははっ!お前っ…ほんとかわいいよなぁっ…」 「どこが?」 「んー…ピュアなところが」 「…?」 「安心しろって、ちゃんと美味しそうに撮るから」 「うんっ!」 「まぁ……あきはいつも美味しそうだけどな」 「………へ?」 謎の発言に、俺は口を開けて爽を見つめる。 「お前はどっから食べても美味しそうに写るから大丈夫!少し食べたことのある俺が言うんだから…間違いない」 「……は……、えっ…ちょっ!?ねぇ、そういう意味っ!!?俺チョコのこと言ってたんだけどっ!!!!!」 俺が意味を理解した時にはすでに遅くて…爽は俺の返事を無視して携帯のカメラで連写を始めていた。 ケラケラ笑いながら楽しそうにカメラを俺に向ける爽は、まるで子供みたい。爽が楽しいなら……俺も楽しいけどさ! それにしても、そんな何枚も撮って一体どうするんだろ? 「おっし、いいぞあき!世界一可愛く、且つ美味しそ~に撮れた」 「…もー!爽ってほんとムッツリ……そんな爽やかな顔してるくせにそういうことばっかり考えてるんだから…」 「まぁ、否定はしないけど…別にダメなことじゃなくね?恋人に性欲感じるのは超健全だろ?」 「そ、そうかもしれないけどっ……」 「ほらなぁ?」 「もぉー!!!ああ言えばこう言う!」 「あはははっ!俺あきのツッコミマジで好き~」 「丸め込むなぁ!」 爽の二の腕をポコポコ殴ってみるけれど、頭を撫で回されて終わった。 完全敗北。 爽との攻防…もとい、イチャイチャを終えて、俺たちは展示されているチョコレートの歴史資料をゆっくり眺めて回った。そのまま工場で実際に作られているチョコ達の様子をガラス越しに見学する。 空港に来るだけでこれが楽しめちゃうなんて…北海道凄くない!? 周囲にはあまーいチョコレートの香りが漂っていて、もしここに要がいたらどんな顔してたかなってついつい考えちゃったりもした。ほら、俺の親友…究極の甘党さんだから。 「ねぇ爽!見て見てすごぉーい!!チョコが回ってる!!こんな風に作るんだねぇ…」 「ふふっ…そうだな…」 「美味しそぉ……」 回転する機械の中で、大量のチョコが作られる工程は圧巻だ。横に係の人はいるけれど、チョコの製造自体は全部機械化されているらしい。複雑そうな作業なのにすごい。機械って、賢い。 俺はガラスに張り付いて、ただただ大好きなチョコレートを見つめる。 「あき……」 「んー?」 「チョコ、今も変わらず好きなんだな」 「え…?…どういう意味?」 「いや……だって……、色々あったから……もしかしたらチョコレート自体があきにとってトラウマになってるかもって思ってたけど…杞憂だったならよかった」 「……あ…!山川さんの件…?」 「……あんな奴の名前呼ぶなよ……胸糞悪りぃ……」 「あれ……?樋口さんヤキモチですか?」 「……ヤキモチなんて綺麗なもんじゃねーよ……俺がアイツに感じてんのは憎悪だけ」 その瞬間、爽の瞳が一気にドス黒い色を含んだのを感じた。茶化そうとしたのに、とんだ肩透かしだ。 そっか……あの事件を引きずってるのは……案外、俺より爽なのかも。

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