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キスする前に出来ること【疑惑編】2
恭介と付き合って、約3ヶ月。俺たちは変わらず平穏な交際を続けていた……
はずだった。
恭介は俺のトラウマのことをよく理解してくれているし、俺への尽しっぷりに関してもなんの不満もない。毎日仕事終わりに顔を見に来てくれて、休みの日は朝から晩まで一緒に過ごす。キスや性行為は、相変わらず出来ないけれど…それでも俺たちは良い交際が出来ていたと思う。
少なくとも俺は、恭介と一緒にいて安心できるし、楽しいし、正直……めちゃくちゃ幸せだった。
…なのに、
最近明らかに恭介の様子がおかしい。
「それ、要の勘違いって可能性は?」
「ない」
「わお……断言するねぇ……具体的にはどこが変なの?要がそこまで言い切るってことはなんか決定打でもあるんでしょ?」
「…………目、見ねぇんだよ…」
「……え?」
「時々……、わざと目逸らして…俺の視線から逃げるんだ…アイツ……」
コレが他のやつなら、俺だって何も言わない。でも、相手はあの…和倉 恭介だ。
俺中心に世界が回っていて、俺以外視界に入っていなかったはずのあの男が…いきなりあんな態度を取れば、そりゃ不安にもなるだろ。
「心当たりは……あるの?」
「…………ない……って言いたいけど……どう考えたって例の…」
「……あー………あぁ…うん、そっか」
俺が続きを話さなくても、暁人にはばっちり意図が伝わったらしい。さすが親友。
俺の心当たりって言うのは、もちろん…
"性行為が出来ないこと"
付き合う前から危惧していたことが、どうやら現実になったらしい。
「………やっぱアイツ………我慢できなくなってんのかな……それで…態度に出ちゃってるとか?」
「…うーん………その、くっついたりは…してるの?抱き合ったりとかは別に平気なんでしょ?」
「…まぁ……そういうのはそれなりにしてると思うけど……」
「その時は…恭ちゃんどんな様子…?」
「……あー………フル勃起だな」
「ブフーーーーッ!!!」
暁人は、勢いよく紅茶を吹き出す。霧状に飛沫した紅茶はテーブルに広がり、それこそちょっとした芸術。
おー…すげー…漫画みたい。
「ゴホッ、ゲホッ…!」
「俺のこと抱きしめて毎回フル勃起しながらも、絶対性行為に持ち込まない恭介のあの精神力だけは…マジで尊敬に値すると思う……ちんこは全く制御できてねーけど」
「ちょちょちょちょ、ちょっと待ったーーーーッ!!!!」
「なんだよ…声でっけーなぁ…」
慌ててテーブルと口の周りを拭った暁人は、キッと俺を睨んで更に叫ぶ。
「ねぇ!!!!オブラートに包もうよ!!!?」
「あ?俺とお前しかいねーのにいらねーだろそんなもん」
「いるってば!!!俺は要とも恭ちゃんとも仲良いんだよ!?そんな2人のプライベートすぎる話聞くんだからそれなりに配慮してよ!!!」
「……はぁ…?」
「あーもうっ…!すごいとこまで想像しちゃったじゃん!!要のばか!!」
「お前の基準わけわかんねー……」
自分は爽とのセックスのこと散々相談してきた癖に……まぁ…でも、直接的な言葉はあんまり使ってなかったか。
暁人はパタパタと手で顔を扇いで、ため息をついた。
「……ねぇ、」
「ん?」
「…仮に…恭ちゃんの態度の原因が、えっちなことを我慢するのがしんどいから…って理由だとしたら……要はどうするの?」
「…どうって…どうも出来ねーだろ……アイツも、それわかってて付き合ってるわけだし…」
「まぁ、そっかぁ……そうだよねぇ……」
「だろ?」
「…うーん………ほんとに、それが原因なのかなぁ……?恭ちゃん…そんな理由で要から目逸らしたりする?俺、そんなの信じられない」
「……俺だってわかんねーよ……」
暁人は斜め上を見ながら、タルトをパクリと口に含む。咀嚼する間もずっと考えた顔をしていて……それから、意を決したように俺を見た。
「あの、さ……俺……ずーっと思ってたことがあるんだけど…」
「…ん?なに?」
「……あ、いや…俺のこの仮説が要の悩みを解決することになるかは…わかんないんだけど……ある意味、提案…?」
「……?なんだよ…随分回りくどいな…言いづらい話か?」
「まぁ……、そうかも…」
「どんなことでもいいから…とりあえず言ってみて、暁人」
「うん、あのね……?」
暁人は俺とのお茶会を終えた後、大学から一旦家に帰って行った。夕方からバイトがあるらしく、その前に爽の夕飯を作るためだ。
アイツも、マジで爽にメロメロだよな。尽くし方が並じゃない。一見爽の愛の方が圧倒的に重そうに見えるけど、その実どっこいどっこいだ。
俺に言わせりゃあの2人は、結ばれるべくして結ばれた…運命のバカップル。
ここに来るお目当てだった人物の帰宅で、暇を持て余した俺は珍しくキャンパスの中を歩いていた。この大学に通うのも、後1年と少し。しかも、4年になれば必修のゼミ以外では登校すること自体完全になくなりそうだ。
卒論のテーマももう決めているし、正直俺の思考はもうすでに卒業後の未来に向かっている。
この学校を卒業したら、俺はデザイナーとして1から経験を積むことになる。トップデザイナーの母親のコネを使うことは簡単だけど、結局そんなものはスタートダッシュの起爆剤くらいにしかならない。才能がなければ、必ず淘汰される業界だ。時代が求めるニーズに応える圧倒的な実力と、自らをプロデュース出来るだけの経営者としての才覚は…必要最低限の必須事項。
生半可な気持ちじゃやっていけないことは、小さい頃から母を見て来た俺が一番よくわかっている。
そう……俺には恭介のこと以外にも考えなきゃならないことが沢山あるんだ。
それでもやっぱり………
俺にはアイツが一番大切。
恭介が隣にいない未来なんて、もう…絶対あり得ない。
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