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キスする前に出来ること【疑惑編】4
「………お前のそのツラと中身で落とせない相手がいることが信じらんねーよ」
「ええっ?」
「…こんなイケメン高校生に靡かないなんて一体どんな女だ」
「あははっ…!お兄さん僕のことめちゃくちゃ褒めてくれますね?」
「そうか?」
「そうですよ!」
クスクス笑う隣の美少年に釣られて、俺も一緒に笑ってしまう。
なんだか、コイツと話すの……心地いいなぁ……
「それで、こんな僕だからこそ…思うことなんですけど……」
「……うん」
「僕はどんなに願っても、その人とは恋に落ちることは無かった……だけど、お兄さんは違う……もう、手に入れてるじゃないですか」
「………」
「自分の好きな人が、自分に好意を持ってくれるのって…それ以上無い奇跡なんですよ?」
キラキラした瞳に見つめられた瞬間、何故か色んなものを見抜かれたように感じた。
やっぱり、コイツ…暁人に……
「そのことを忘れて、奇跡の上に胡座かいちゃダメです」
「………」
「奇跡の先にある愛は、相手を理解し続けようとする忍耐力が無ければ…簡単に消えてしまうと思うから」
「………忍耐力…か…」
「はい…、名言を引用するなら……"忍耐とは全ての勝利の秘訣である"ってことですね…!」
「………!ヴィクトル……ユーゴー……」
目の前の男の子は少し驚いた顔をした後、正解です…!と呟きながら小さく笑った。
まさか初対面の高校生からこれを聞くとは……
「たくさん色んなことで頭いっぱいになったり、悩んだりするのは…お兄さんが相手のことを本気で好きな証拠でしょ?だから…大丈夫です!今お兄さんが思っている気持ちにも、お兄さんの恋人の態度にも…きっとちゃんと意味があります」
「意味……」
「はい…!愛が消えていないなら、絶対乗り越えられますよ」
「………お前、」
「…はい?」
「マジで何者なんだよ……」
「あはっ!だからただの高校生ですって~」
泣く子も黙る結城 要ともあろうものが……この優しい笑顔と、とんでもない説得力にすっかりやられた。
なーにが"ただの高校生"だ!こんな高校生が普通にいてたまるか!俺の周りにいる大人の誰よりも精神年齢上じゃねーか。
「俺さ……今日、親友にもこのこと相談してたんだけど……その時と同じくらい心に響いたわ……ありがとな」
「ほんとですか?お役に立てたなら良かったです…!」
「まぁ、親友の返答はお前と違って……相当斜め上だったんだけどな?」
「………親、…友………」
「そうそう、とびきりかわいい自慢の大親友!アイツお前の一学年上だから、入学したら紹介してやるよ!男だけど、マジで目ん玉飛び出るほどかわいいから腰抜かすなよ?」
「………はい」
「はー……なんか色々ありがとな!すっげー勇気出た!俺……次恋人と会ったら、ちゃんと話してみるわ」
「…ぜひ」
俺の言葉にニコッと笑った少年は、数秒後…少しだけ悩んで…それからもう一度俺を見た。
「あの………ここまで色々話して今更ですし……確信があるわけじゃないんですけど…、」
「ん?なに?」
「…………お兄さん、もしかして結城 要さん……ですか?」
「………は!?えっ!?…お前、俺のこと知ってんの!?」
ついに在校生じゃない奴からも認知され出したのか俺は……と勘繰るが、どうやら違うらしい。
……ってことは、つまり…?
「やっぱり……!!!途中からそうじゃ無いかなぁ…って思ってたんです!!美人だとは聞いてましたけど、まさかここまでお綺麗だなんて…びっくりです!!」
「は!?」
「いやぁこんなに早くあきちゃんの親友に会えるなんて…今日、見学に来て良かったなぁ~」
「えっ…!?なに…!?あきちゃんって………え!?お前…誰!?」
「僕、日下部 旭(くさかべ あさひ)って言います」
「…………は?」
「暁人は、僕の1つ上の兄です!」
カランカランッ…
「いらっしゃ…あっ!要ー!遊びに来てくれ…………………えっ………旭!?」
「やっほーあきちゃーん!」
「あれぇ!!?なになに!?2人、もう出会っちゃったの!!!?」
個人経営のかわいい本屋の扉を開けると、親友が目をまん丸にして俺と隣の男を交互に見た。
「『もう出会っちゃったの』じゃねーよ暁人!!!弟が帰国してるなら早く言え!!俺めちゃくちゃビックリしたんだからな!!!」
「えー?だってぇ…内緒にしていきなり会わせたほうが面白いかなって思って~でもざんねーん…2人がエンカウントするとこ見たかったなぁ~」
「お前っ…!爽みたいなことしてんじゃねーよ!!!弟と親友の出会いにゲーム性見出すなこの悪趣味ッ!!!」
暁人から聞いていた弟の前情報は、オーストラリアに留学しているってことだけ。普段はどんな小さいことも報告してくるくせに、弟について全然話してくれないから妙だなとは思っていたけど……これで納得。暁人は弟を俺に会わせるのを、ちょっとしたイベントだと思っていたらしい。
まぁ……家族のことを人に話さないって点については…俺も人のこと言えないけど。
「あはははははははっ!!!ちょっと待ってよ要くんの返し完璧じゃん!!!ヤバイーッウケるーっ!!!」
「でしょー!?ほらねー!やっぱり要と旭は気が合うと思った~!!!」
「喜ぶなアホ兄弟!!!!」
目の前で爆笑している仲良し兄弟に、俺はジトっとした視線を向ける。人で遊びやがって…!とんだ似たもの兄弟だな、チクショウ。
旭の笑顔を見て、散々『暁人に似てる』とは思っていたけれど、まさか本当の弟だとは思いもしなかった。
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