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キスする前に出来ること【疑惑編】5
「で、2人は…どこで出会ったの?」
「大学だよ!今日高校午前授業だったから午後から大学に見学に行ってたんだけど……そこで僕、要くんにナンパされちゃって」
「へぇ!!?要っ…!!俺の弟ナンパしたのぉ!!!?」
「………真に受けるかね普通」
「あっははははははっ!!!!ひーっ、やっぱあきちゃん最高っ!!!」
「お前は笑い過ぎだ旭っ」
旭の腕を肘で小突くと、ニコッと綺麗な笑顔が返って来た。やっぱり、笑った顔は暁人に似てる。だけど…旭は頭の回転が早い分ド天然の暁人より色んな意味でタチが悪そうだ。いい奴なのは、間違い無さそうだけどな。
「じゃ、俺帰るから」
「えっ!要帰っちゃうの!?コーヒーくらい飲んでってよー!」
「いや今日はいいや、旭送ってきただけだし………多分、そろそろうちにアイツ来るから」
「あ…そっか……うん、わかった!恭ちゃんによろしくね!」
「ん、そっちも…楓さんによろしく」
俺がそう言った瞬間、奥でレジ対応していたロングヘアの美人がこっちをチラッと見てウインクしてくれた。
彼は清水 楓(しみず かえで)さん。爽の大学時代の同級生で、この店の店長だ。物腰柔らかな美人で…聡明な上、センスも愛嬌もある。暁人のこともめちゃくちゃ可愛がってくれているし、誰から見ても文句なしに素敵な人だと思う。今日は話せなくて、ちょっと残念。忙しそうだから仕方ないけど。
俺は楓さんにも小さく手を振って、店を出た。
外に出ると、冷たい風に吹かれて思わず身体がブルッと震えた。すぐに隣の駐車場に向かっていると、後ろから誰かが走ってくる音が聞こえて、振り返る。
「……旭?」
「要くんっ待って!」
「どうした?…あ、家まで送るか?」
「いえ、そうじゃなくて…!あの、言いそびれてたんですけど…僕明日からあきちゃんと一緒にここで働くんです」
「え!?そうなのか!?」
「はい!それに、4月からは同じ大学ですし…だから、出来れば僕とも仲良くしてもらえたら嬉しいなって…」
はにかんで笑う旭の笑顔は、今日見た中で一番幼く見えた。言動はとても大人びているけれど、まだ高校生なんだもんな……
うん、この顔は…ちゃんと17歳に見える。
「………んー………わかった!じゃあ、敬語やめてくれるか…?」
「え………、いいの?」
「うん、いいよ……俺もお前と仲良くなりたい…!旭話合うし、いい奴だし、その上…親友の弟だし?」
「わーいっ嬉しいっ!やったぁ!」
「あははっ、やっぱお前暁人に似てんなぁ~」
目の前で無邪気に笑うイケメン高校生に、自然と頬が緩む。
…来年はほとんど登校しない予定だったけど…この調子じゃ、また大学に行く理由が増えそうだ。
「えっ、ほんとに?僕とあきちゃん似てるかなぁ?」
「身長とか顔の造りはぜんっぜん似てねーけど、なんて言うか…お前ら表情が似てるんだ」
「表情…?」
「そうそう!俺、日下部家の遺伝子に相当やられてる!」
ポンっと頭を撫でてやると、旭は柔らかい笑顔で俺を見た。
……なんか、癒し効果すげーなコイツ。
まだ旭と話していたかったけど、流石に寒くなってきたのでそろそろ店に戻るように告げた。弟に風邪引かせちゃ、暁人にも申し訳ないしな?
俺が車に乗り込むと同時に、旭はコンコンッと控えめに窓をノックした。慌てて窓を開けると、さっきより少しだけ真面目な顔をした旭がこっちを見下ろしているのが見えた。
「ん?」
「あの…要くん、今日は色々付き合ってくれて…その上送ってくれて…ありがとね?」
「…こちらこそ、楽しかったよ」
「ならよかった!……それとね、」
「ん…?なに?」
俺が首を傾げると、旭は一歩下がって勢いよく頭を下げた。そのあまりの勢いに驚いて、俺は目を見開いたまま固まる。
「……兄のこと、沢山助けてくれて…ありがとうございました」
「…!……あー……暁人から、聞いてた?」
「うん、全部……要くんがあきちゃんの親友でほんとによかった」
「…ふはっ、まぁ…俺腕っぷしの強さには自信あるからさ」
ってか、むしろ一番の長所かも。
母に言われて幼少期から格闘技やってたことが、まさか親友の役に立つとは思ってなかったけど。
「そうじゃなくて…!」
「え?」
「あきちゃんを本気で大事にしてくれる人が、あきちゃんの親友でよかったなって……ほら、あきちゃんってあの見た目でしょ?だから昔から…敬遠されたり、同性からも変に恋愛感情持たれたりで全然友達できなかったんだ……」
「……そっか」
「だから、要くんみたいな素敵な人と仲良くなってくれて…弟としてもすごく嬉しいんだよ」
「旭……お前、」
暁人は俺に弟の話をあえてしてなかったみたいだけど、実は爽からは少しだけ聞いてたんだ。"ものすごく、いい子"だって。
爽の、言ってた通り…いや、それ以上だな。
旭はたぶん、……周りの人間が思っている以上に色んなものが見えてる。おそらく…見えなくてもいいところまで。正直、ここまで頭のいい子に俺は会ったことがない。その上優しいんだ………これは、苦労してきたに決まってる。
爽も暁人も、きっと気付いてない。
旭が片想いし続けた相手はおそらくーーー………
「旭、なんかあったら…俺のこと頼れよ?」
「……え?えっと…、嬉しいけど…なんで急に…」
「なんか、俺お前のこと…すっげーかわいくなっちゃったから…守ってあげたいなって…」
「…………要くんさぁ……」
「……ん?」
「僕だからいいけど…そういうのは、恋人さんが悲しむと思うからあんまりやらない方が…」
「…は…?…そういうのって?」
「……なるほど…、あきちゃんと要くんが仲良い理由…なんとなく理解できた」
旭はウンウンと頷きながら俺に向けて苦笑いした。
…俺、なんかまずいこと言ったか?
「はぁ~………とにかく…僕、要くんが恋人さんとうまく行くように祈ってるからね?」
「ん、ありがと…」
「ふふっ、なんか僕も会ってみたくなっちゃったなぁ~!要くんを夢中にさせるなんて一体どんな人だろう…!今度、会わせてくれる?」
「………あー…全然いいけど……なんか、不思議な化学反応が起きそうな予感…」
「わお、楽しみ!」
「あははっ、…じゃ、またな?」
「うんっ!また!」
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