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キスする前に出来ること【疑惑編】6

暁人のバイト先から俺の家までは車で約15分。運転が好きな俺からすると、この距離じゃちょっと物足りなくていつも少し遠回りをして帰っている。今日は恭介が家に来る時間が迫ってるから、最短距離で帰るけど。 ふと窓の外を見つめると、チラチラと雪が降ってきているのが見えて思わず路肩に車を停めた。 「……寒いと思った……」 ハンドルに両腕を乗せて、フロントガラスを覗き込み真上を見る。 初雪だ。 なんだか不思議な1日だったな。 それにしても……暁人の弟があんな強者だなんて予想外もいいとこだ。なんか、日下部家にますます興味湧いちまった。今度実家連れてけって暁人に言ったら、連れてってくれっかな…?是非、ご両親に会ってみたい。 しばらく時間も忘れて雪に見入ってしまって、ハッとして時計を見る。 やばい、恭介もう着いてるかな…? 慌てて車を発進させようとした瞬間、携帯が震えていることに気がついた。ポケットから携帯を出し、画面を見ると…ちょうど今頭に浮かんでいた相手の名前が表示されていた。 ……帰宅の催促か? 「もしも…」 『もしもしかな!!!!?』 「あー…恭介ごめん、今帰ってる途中で…たぶんあと、10分くらいかか…」 『かなっ…ほんとに悪いんだけど…今日、そっち行けない…!』 「………え?」 恭介の焦った声に驚いて、呆然としてしまう。 普段どんなことがあろうと絶対に家に来ようとする恭介が、ハッキリ"行けない"って言うってことは…それ相応のなにかがあったってことだ。 「えっ、…お前なんかあったの?大丈夫?」 『いや、うんっ!俺は全然大丈夫!なんもないよ?』 「……え…じゃあ、なんで…?」 『あー……えっと、実は…妹がちょっと体調悪くて…』 「エッ!?大丈夫なのか!!?」 『…うんっ…!だけど、かなとの約束…守れそうに無いから…!申し訳なくてっ…』 「……約束?」 『そう…ほら、付き合うとき…毎日会いに来てってかな言ってたでしょ?』 そう言われてみれば……確かに、言ったかもしれない。そっか…恭介はあれを約束だと思っていたのか。俺たちは付き合って3ヶ月経つが、恭介は本当に毎日俺の家に会いに来てくれていた。仕事がどんなに忙しくてもだ。 でも俺からしたらあの言葉は、付き合う時の単なる照れ隠しで…なにも本気だったわけじゃない。 なんだよ俺……最低じゃん…… 本来なら、体調の悪い妹さんのことだけ考えていなきゃいけない状況で恭介に俺のことまで考えさせてる。 あんな、俺の……ただのわがまま発言のせいで。 「そんなこと…考えなくていいから!妹さんが良くなるまでそばにいてやって!」 『…うん、ごめん』 「謝るなっつの!!!ってか…妹さんの体調どんな感じなんだ?病院行ったのか?もし何か必要なら今から届けに…」 『いや!いい!!!それはいい!!!マジでいい!!!』 「…でも……」 『大丈夫だから!!!熱があるとかじゃ無いし、心配しないで!!』 「……えっと…わかった……」 妙に早口な恭介の圧に押されて、無理矢理納得させられてしまった。いつも主導権を俺にくれる恭介にしちゃ、珍しい。 『とりあえず、また連絡するね!!』 「……ん、わかった……お大事にな?」 『……うん、ありがと!……あの、かな……?』 「ん?」 急に小声になったと思ったら、さらに囁くような声で恭介は呟いた…… 『………愛してるよ』 大好きな彼氏からの愛の言葉に、内心舞い上がる。不安な気持ちも軽くなる、ストレートな愛情表現だ。 男らしいのに、柔らかくて…優しい。 俺、やっぱり…恭介の声大好きだな…。 あー……やばい、こんな気持ち……絶対悟られたく無い。 「………うるせーよ……」 『ちょ…ねぇーー!!!ひどくない!?』 「ぶふっ…!はいはい…早く看病に戻れよアホ」 『もぉ~!!!次会ったら骨折れるまで抱きしめるからっ!!!』 「…おーやれるもんならやってみろよ」 『……ぐっ…その前に全身バキバキに折られる未来が見えました…』 「よくわかってんじゃん」 一瞬の間の後、2人同時に笑い出す。 ……やっぱり、俺の気のせいだったのかな…恭介の態度、いつも通りじゃん。 「じゃーな、頑張れよお兄ちゃん」 『…エッやば…!かなにお兄ちゃん呼びされるのはさすがに興』 ーーーーブツッ ツーツーツー……… よし。これでいい。 あのアホは調子に乗らせちゃダメだ。っていうか多分、アイツも俺にこうされんの期待して電話でセクハラかまそうとしてたな? さて…… 恭介はいらないって言ってたけど…何かしら持っていってやったほうがいいかも。風邪とは言ってなかったけど…体調不良なら十中八九風邪だよな? もし風邪じゃないにしても、スポーツドリンクとか…ゼリーとか…果物とか…とにかく具合悪くても食べられそうなものを一通り買って届けよう。それで…気遣わせちゃ悪いからドアノブにでも引っ掛けるかな。 色々考えながら携帯の画面を見ていると、ふと見慣れないアプリが目に留まった。 ……あれ?俺、こんなの入れたっけ……? 「……あ!!これ……アイツが言ってた位置共有アプリか…!」 あのストーカー……俺と付き合った後も入れっぱなしにしてたのかよ。 …まぁ、いいけど。今回役に立ちそうだし。俺、恭介の自宅の住所は知ってるけど…一度も入ったことないから。妹さんがいる手前、勝手に押しかけるわけにも行かなかったし、会うのはいつも俺の家で事足りていたからな。 でもこれで、わざわざ部屋番号聞かなくても買ったものをそっと置いていけそうだ。 そう思ってアプリを開いた瞬間、 息が止まりそうになった。

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