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キスする前に出来ること【真相編】7
「かな!!!!コイツだれ!!?なんで泣かされたの!!!?」
「……なんでって……、この子は関係ないっ!!!!つーか、むしろ助けてくれた側!!!いいから早く放せ!!!」
「…え!?ええっ!!!?」
俺がそう告げた瞬間、恭介は旭から手を放しあからさまに動揺し始めた。
一連の様子を見守っていた旭は俺の方を向いてニコッと笑うと、俺と恭介の手を取り…無理矢理繋がせた。
恭介も俺も、訳がわからないまま旭を見る。
「うん!よし!」
「…あの……旭…?」
「ふふふっ……そっかぁ…、なるほど…!男の人なのは予想外だったけど……とってもお似合いだね?会えて嬉しいです!要くんの恋人さん!」
「……へ?えっ、…ど、どういうこと…?」
「早く要くんを元気にしてあげてくださいね…?……じゃ、僕バイト行くんで!また!」
混乱しまくっている恭介を尻目に、旭は颯爽と去っていった。
…この状況であの帰り方出来るか普通…?見ず知らずの奴に胸倉掴まれたんだぞ…?
アイツやっぱ、頭の中の色んなネジぶっ飛んでんだろ……
確かに俺は、もし旭と恭介が出会ったら"不思議な化学反応が起きそう"とは言ったけどこんな展開は全く予想していなかった。
小さくなっていく旭の後ろ姿を眺めながらしばらくボーッとしていると、繋いだままになっていた右手が不意にぎゅっと握り締められた。隣に立つ恭介の顔を見上げると、なんだかバツが悪そうだ。
「……あ………あの、かな………?」
「……なに?」
「お家……入っていい?俺……ちゃんと話したいんだけど……」
「……ん、俺も………」
手を繋いだまま2人一緒に俺の自宅マンションに入る。いつもならギャーギャー騒ぐはずの恭介が、今日は黙ってエレベーターに乗りこんだ。
え………
あれ……?
なにこの重い空気………?
なんか、思ってたのと違う……
………もしかして、こいつなりになんか察してる……とか?
この1週間、会ってもなるべく気持ちを顔に出さないようにしていたし…昨日電話した時は何かに気付いたような様子は全くなかったのに……なんでだ……?
それとも、さっきの旭との件か?あれはただの勘違いだってわかったはずだけど……
じゃあ……なぜ……?
……ああもうっ、
ただでさえ寝不足で頭が痛いのに……こんなの冷静に推理できるわけない!
「かな…着いたよ?」
「……え、」
考え込んでいる間にエレベーターは目的階に到着していたようだ。恭介は扉を手で押さえながら俺を見下ろす。
「ご、ごめん…!」
「全然?……俺、鍵開けるね?」
「……ん、ありがと…」
コイツ、また俺の家の合鍵勝手に持ち出したのか……
普段なら『このストーカー!』と罵る場面で、グッと口を噤む。最早、反論する気力も無い。
ボーッと、恭介が鍵を開けている後ろ姿を眺める。
これからコイツとちゃんと話せれば……俺、また普通に眠れるようになるのかな…?話せたとしても、浮気されたことには代わりないのだから…無理なのかも。
万が一に備えて薬局で買った小さな小瓶をポケットの中で握りしめる。これを使うことにならないことを……祈るしかない。
ガチャン…と大きな音を立てて扉が開く。
その瞬間…恭介は俺の腕を掴んで、
一気にドアの内側に引き摺り込んだ。
「…!?は!?えっ、」
「……っ」
「…!?きょ、……」
「かな……っごめんねっ…!」
抗議の言葉を口にする前に、恭介にキツく抱きしめられた。そして同時に、謝罪の言葉。
訳がわからない……一体どういうことだ…?
「……な、んで…?」
「俺っ……自分のことばっかりで…全然会いにも来れてなかったから…かなが体調崩すほど悩んでたことに全く気付かなくてっ……本当にごめんっ……」
「……っ、」
恭介は俺の身体に回していた腕を緩めると、俺の目元に指を這わせる。苦しそうな顔で見つめられて、俺は目を見開いたまま固まるしか出来ない。
「こんな綺麗な人に…ここまで酷いクマ作らせて…っ、俺ってほんとっ…最低のクソ野郎だっ……」
「…………待てよ恭介っ……なんだよそれ………、お前、昨日電話した時は全然そんなこと言ってなかっただろ…?なんで今日になって急に……」
「それは…っ、」
恭介は右手で俺の頬を優しく撫でる。視線が絡み合って、体温がグッと上がった。お互いの息がかかるくらいの近距離だ。
……きっと、普通ならこのタイミングで…キスするんだろうな。
ふと恭介の口元を見て、血が滲んでいることに気がついた。ほんの少しだけど、唇の端が切れている。
「えっ……?恭介……お前、血出てねぇ…?」
「へ…?あ、……ああ……その、ちょっと…あー……転んで…」
「……これ、殴られた傷だろ…?」
「えっ」
「俺に隠せると思うか?誰に殴られたんだよ…!」
人生を格闘技に捧げてきた俺が言うんだから間違いない。これは絶対に誰かに殴られて出来た傷だ。
恭介はしばらく黙り込んだ後、気まずそうに口を開いた。
「あ……あの、実は……さっき…、爽と暁人に会って……というか、待ち伏せされてて……」
「えっ!!?」
予想外の言葉に驚く。
爽と暁人って……
待てよ……ということは……つまり、
「爽に殴られたのか!!!?」
「いや、………その………爽、じゃなくて……」
「……え?」
「暁人に…殴られた」
「……………は……?」
「会社の前で……しかも、グーで……思いっきり……」
「は………はぁあああ!!!?」
俺の素っ頓狂な声が玄関に響く。ここ数年で、一番間抜けな声を出した自信がある。
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